恐怖の試合 (2)



「どうしてプロレス技を知っているのかと、疑問を口にした方がよかったですか?」


「それはもっと違う感想だな」



 今度はローレンスがツッコミを入れた。リンの肩に乗るスイも、うんうんと頷く。その横で、セドリックは「プロレスって何だろう」という顔をする。読み取ったヴィクターが「格闘技の一種だ」と説明をした。



「ちなみに、俺がエドにプロレスの本を渡した」


「まさかのヴィックだと?!!」



 ローレンスが愕然とした。スイも思わずヴィクターを見る。どう見てもヒョロヒョロしたメガネキャラだが、まさか武闘派なのだろうか……。



「マグルの世界について知識があるんですか?」


「俺の叔母の夫がマグルで、格闘技に興味があるらしい。それで、この間その本が送られてきて、いらないからエドガーにやった」


「格闘技、興味ないんですか?」


「あまり好きではない。……リンは得意そうだな」


「……そうでしょうか?」


「昨年度、決闘クラブで女生徒を投げ飛ばしていただろう」


「あれは不可抗力です。好き好んでやったわけではありません」


「だろうな」



 だからそこじゃないよ論点は。内心でツッコミを入れるスイの傍で、「ヴィックがあんなに饒舌になるなんて……リンはすごいね」「セド、お前はボケないと信じてたのに」という会話がなされる。



「……あ、の。朝食、に、行かなくていい……ん、ですか?」



 おずおずとしたデイヴィッドの発言で我に返るメンバーを見て、スイが「結局みんな緊張感ないじゃないか」と思ったのは、誰も知らない。





**

 チームメイトたちと朝食を済ませたあと、リンはスイをハンナたちに預け、競技場へ向かった。

 途中でジンと目が合った気がしたが、すぐにほかの生徒たちが間に入ってきて彼の姿が見えなくなってしまったので、確証は持てなかった。



 フィールドに出ていくと、風の物凄さに、みんな横ざまによろめいた。耳をつんざく雷鳴が鳴り渡り、観衆が声援していても、掻き消されて耳には入ってこなかった。


 雨に濡れて額に貼り付く前髪を掻き上げて、リンは空を睨んだ。こんな状況で、果たして無事に試合を終えることができるのだろうか? 怪我人が出そうじゃないか? 


 不安がごく自然に湧き出たが、リンは首を振ってそれを頭の中から打ち消した。そうなる前に自分がスニッチを捕まえて試合を終わらせればいいのだ。



 フィールドの反対側から、真紅のユニフォームを着たグリフィンドールの選手が入場してきた。

 キャプテン同士が歩み寄って握手をする。エドガーは雨にも負けないくらい爽やかに笑いかけたが ――― それを見て、アンジェリーナ・ジョンソン、アリシア・スピネット、ケイティ・ベルがクスクス笑いをしたので、フレッドとジョージが顔を思い切り顰〔しか〕めた ――― オリバー・ウッドは、口が開かなくなったかのように頷いただけだった。


 決然としてるなぁと感慨を抱いたあと、リンは正面を見た。相手チームのシーカーであるハリーと目が合う。リンは、声をかけられない代わりに微笑みかけた。そのあと、すぐに視線をマダム・フーチに向ける。彼女の口が動く ――― 「箒に乗って」。

 リンは右足を泥の中から引き抜き、箒にまたがった。フーチがホイッスルを唇に当てて吹く。鋭い音が雨の中に響いて聞こえた ――― 試合開始だ。


 ぐっと箒の柄を握って泥を蹴り、リンは急上昇した。箒がやや風に煽られて流れたが、しっかりと意識を集中させると落ち着いた。


→ (3)


[*back] | [go#]