「太った婦人」の逃走 (2)



「あれ、もうグリフィンドールがいる」



 アーニーが不思議そうに言った。その通りで、ハッフルパフ生が一番乗りかと思いきや、すでにグリフィンドール生が大集結している。彼らの寮が最も大広間から遠いはずなので、これはおかしかった。



「どういうことかしら」


「グリフィンドールで問題が起こったってことだろうね」



 首を傾げるハンナに、リンが静かに言った。ちょうどそこで、レイブンクローとスリザリンも揃い、ダンブルドアが大広間へと入ってくる。続いてやってきたマクゴナガルとフリットウィックが、大広間の戸という戸をすべて閉めきり出すのを見て、リンは、これはただ事ではないと直感した。


 案の定、もたらされたのは、よくないニュースだった。――― シリウス・ブラックが城の中に入り込み、グリフィンドール塔に押し入ろうとして、頑なに拒んだ「太った婦人」を襲ったらしい。



「これから、先生たち全員で、城の中をくまなく捜索する。生徒諸君は、この大広間から外には出ず、静かに速やかに就寝じゃ」



 そう指示して、ダンブルドアと先生方は踵を返した。


 しかし、そんなビッグニュースを伝えられてすぐ、生徒たちが指示通りに大人しく就寝するかと問われれば、答えは当然「否」だ。寝袋を一つ手にしたリンは、溜め息をつく。先生方が出ていった途端、生徒たちは思い思いのことを囁き出していた。



「………静かなところで寝たいから」



 なぜか二人組ずつになってヒソヒソ話を始めた友人たちを見、一人だけ四人分の聞き手に回っていたスーザンに言い残し、リンはスイを連れて、寝袋を隅の方へ引きずっていった。


 行き着いた先には、ハリー、ロン、ハーマイオニーがいた。スイがリンの肩から降りて三人の元へ行くと、寝転がっていた彼らは驚いて勢いよく起き上がる。その光景に口元を緩め、リンは朗らかに声をかけた。



「こんばんは。隣いいかな、ハーマイオニー?」



 ハーマイオニーが返事をする前に、リンは自分の寝袋を彼女の横に据えた。



「……構わないけど、ハンナたちはどうしたの?」


「ブラックについて熱く議論を交わしてる。うるさくて仕方ないから避難してきた」



 溜め息をついて、リンはローブを脱ぎ、適当に丸めて寝袋のような形に整える。それをスイに与えて、自分は寝袋に潜り込んだ。


 静かだろうと期待して隅へやってきたが、それでも辺りは囁き声に満ちていた。



「いったい、どうやって入り込んだんだろう?」


「『姿現わし術』を心得てたんだと思う……ほら、どこからともなく突如現れるアレさ」



 少し離れたところにいたレイブンクロー生が言うと、ハッフルパフ生の五年生が違う意見を述べた。



「変装してきたんだ、きっと」


「飛んできたのかもしれないぞ」



 ディーン・トーマスが続けたところで、ハーマイオニーがイライラ声を出した。



→ (3)


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