「太った婦人」の逃走 (1)



「どうぞ、お土産です、リン」



 鮮やかな彩りのお菓子がギッシリ詰まった袋が、ジャスティンからリンに渡された。黄昏時にハッフルパフの談話室に帰ってきたハンナたちは、寒風に頬を染め、人生最高の楽しいときを過ごしてきたという顔をしていた。



「ありがとう」



 興味津々なスイがソワソワと袋を見るので、リンは袋の中身をテーブルの上に出して広げてやった。スイはまず数種類のチョコレートを手に取って見比べる。



「行きたいところは行けたの?」



 未だに興奮している様子のアーニーに尋ねると、彼は笑顔で頷いたが、スーザンがキッとアーニーを睨んだので、すぐに俯く。一瞬の変貌ぶりにリンは笑った。



「気にしなくていいって、この間言ったでしょう? ねぇ、ホグズミードはどんな感じだった? 話してよ」



 蜂蜜色のぷっくりしたトッフィーを手に取ったスイを撫でて、リンは土産話を催促した。ハンナたちはおずおずと互いの顔を見合わせたが、リンが首を傾げて微笑むと、堰を切ったように語り出す。やはり喋りたくて仕方がなかったらしい。


 実は一番楽しんできた様子のジャスティンとベティの話に、リンは細かく相槌を打った。



**

 ハロウィーンの宴は、今年も素晴らしかった。大広間には、何百ものくり抜きかぼちゃに蝋燭が灯り、生きたコウモリが群がり飛んでいた。燃えるようなオレンジ色の吹き流しが、荒れ模様の空を模した天井の下で、何本も鮮やかな海ヘビのようにクネクネと泳いでいた。


 そんな素敵な光景の中、リンは、例年通り苦労していた。


 まず、コリン・クリービーと彼の友人たちが「トリック・オア・トリート!」連弾攻撃を仕掛けてきた。次に、何かを背後に隠し持つシェーマスから「トリック・オア・トリートって言ってくれ!」と迫られた。最後には、ホグズミードの土産も兼ねた菓子の山を、ノットが献上してきた。


 彼らの感覚は、かなりおかしい……やり過ごし切れず、巻き込まれながら、リンはうんざりと思った。なぜここまで疲れなければならないのか、解せない。


 ハロウィーンなんてなければいいのに……。スイに労わられつつ、一瞬だけ本気で思った。


 しかし、宴に出たかぼちゃパイが相変わらず美味だったので、ハロウィーンの存在自体は許すことにした。



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 楽しい宴が終わると、リンたちは寮に戻った。



「今日はすーごく楽しかったわ」


「いい夢が見られそう」



 ぐーっと身体を伸ばしたベティが言うと、ハンナが続いた。欠伸をしたスイをリンが撫で、スーザンが「そろそろ寝に行きましょう」と言ったとき、スプラウトが切羽詰まった様子で談話室に入ってきた。



「全員、大広間に集合です!」


「どうしてですか?」


「質問はあと! 急いで!」



 一番戸口に近いところにいたエドガーが聞いたが、スプラウトに一蹴された。エドガーは、隣に立つセドリックと顔を見合わせて、肩を竦める。


 そのまま大人しく出ていく彼らに、ほかの生徒がわらわらと続く。その波に乗って、リンたちも大広間へと向かう。ハッフルパフ寮は大広間に一番近いので、すぐに到着した。



→ (2)


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