「太った婦人」の逃走 (3) 「まったく。『ホグワーツの歴史』を読もうと思ったことがある人はいないわけ?」 「いや、去年の『秘密の部屋』騒動で何人かが目を通したはずだと思うけど」 天井を眺めながらリンが返した。リンの方を向いてハーマイオニーが口を開きかけたが、ロンの方が早く言葉を口から出した。 「どうしてそんなこと聞くんだ?」 ハーマイオニーはロンを軽く睨んだ。ロンが少しだけ赤くなる。ハーマイオニーはフンと鼻を鳴らし、ホグワーツでは「姿現わし」ができないこと、吸魂鬼に通用する変装はないだろうこと、空も含めたどんな抜け道も吸魂鬼にしっかり見張られていることを主張した。 「それでも、いくつかの方法に可能性があるんじゃない?」 欠伸を噛み殺したリンが、ハーマイオニーに反論した。 「違法で『ポートキー』を作るとか。でも、吸魂鬼の弱点をつくなら、たぶん ――― 」 「灯りを消すぞ!」 リンの言葉を被せるように、パーシーが怒鳴った。 「全員寝袋に入って、おしゃべりはやめ!」 蝋燭の灯りが一斉に消えた。それを機に、リンは口と目を閉じてしまったので、ハリーたちは、リンが考えるブラックの侵入手口を聞き損なった。だが、一人だけ、誰よりもリンの近くにいたスイは、しっかりと彼女が言った内容を聞き取っていた。 ――― 人以外のものに姿を変えればなんとかなるはずだ、と。 それから数日、学校中がシリウス・ブラックの話で持ち切りだった。 「ブラックは花の咲く灌木に変身できるのよ」 常にリンの隣にいるハンナが、ブラックの話題に出くわす度にそう主張するので、リンたちは参った。 そして、薬草学の時間、ハンナがハーマイオニーにまでその話を始めたとき、ついに我慢できなくなったリンがこう言った。 「あのさ、ハンナ。仮に灌木に変身したとして、誰に城まで運んできてもらったって言うの? まさか灌木が独りでに動けるとか言わないよね」 リンに指摘されたからか、スプラウトに私語をするなと注意されたからか、ハンナは顔を赤らめ、そのあとは二度とその話をしなくなった。 しかし、今度はチラチラとリンの機嫌を窺ってくるようになったので、結局リンは辟易するのだった。 → (4) |