二人で留守番 (2)



「リンを一人取り残していくなんて、できません。僕には耐え難い苦痛です……僕も、貴女とここに残ります」



 瀕死のリンを見捨てろとでも言われ、それに抗っているかのような口振りだった。リンはわけが分からないという顔でジャスティンを見、スイは溜め息をつく。


 ジャスティン・フィンチ-フレッチリーのリンに対する態度は、最近ますます友情や憧憬から離れ、忠誠や崇拝に近いものになってきている。つい先日の「セオドール・ノット事件」の影響もあるのかもしれない。「例のあの人」にはべる死喰い人かと思うくらいだ。スイは、将来のリンがどうなっているか、少し心配になった。



「………あの、ジャス?」



 しっかりと握り締められている手を少しだけ動かして、リンはジャスティンに声をかけた。ジャスティンはすぐに反応する。



「はい。なんでしょう?」


「べつに残らなくていいよ。私としては……その、アーニーたちと一緒に行って……うん、スイと私にお土産を買ってきてくれる方がいいかな。そっちの方が嬉しい」



 チラチラとジャスティンの顔を窺いながら、リンは慎重に言葉を選んで言った。スイが彼女の頬を撫でたと同時に、ジャスティンが表情を明るくする。



「分かりました! リンが喜びそうなものを探してきます!」


「うん、ありがとう。でもあまり高いものは……あー、えっと、ジャス? 私、お菓子がほしいな。スーザンかアーニーと選んできてよ」


「お菓子ですか? 分かりました」



 頬を染めて頷くジャスティンの背後で「任せて」と合図するスーザンとアーニーに、リンはホッと息をつく。スイは賢明な判断だと思った。


 ジャスティンなら、リンのためという理由で、惜しげもなく高価なものを買ってきてもおかしくない(現にいままでのリンの誕生日プレゼントはすごかった)。だが、お菓子であれば、そんなに高価にはならないだろうし、常識人と一緒ならば安心だろう。


 いろいろと気を遣わなくちゃいけないなんて、愛されるって意外と大変だなーと、宿題の始末を再開したリンを見上げたスイは思った。



**

 ハロウィーンの朝、みんなの心配に反して、リンは通常運行だった。いつもと同じ時間に起床し、手早く着替えを済ませ、鉢植え植物に水をやって様子を観察し、スイを起こして、みんなと一緒に朝食を取りにいった。


 ワイワイと騒がしい大広間で朝食を終えたあと、リンはハンナたちを玄関ホールまで見送った。何度も振り返るジャスティンに苦笑混じりに手を振り、リンは踵を返す。



「居残りか、ポッター?」



 不意に声が聞こえた。リンが振り返ると、ハリーがホールに立っていた。クラッブとゴイルを従えたマルフォイが大声で彼に話しかけている。スイがイライラと尻尾を振ったので、リンは宥めるように彼女の身体を撫でた。



「吸魂鬼の傍を通るのが怖いのか?」


「それ、リンにも言ってんの?」



 マルフォイのすぐ前にいたベティが、グルンと振り向いて、ジロリと彼を睨んだ。



「リンだってホグズミードに行けないのよ」



 ハリーがこちらを振り返った。目が合ったリンは、軽く肩を竦めてみせる。笑顔で駆け寄ってくるハリーの背後でマルフォイが口を噤んでいるのが見えたスイは、鼻を鳴らした。



→ (3)


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