二人で留守番 (3)



「居残りは僕一人だけかと思ってた!」



 二人並んで大理石の階段を上りながら、ハリーが嬉しそうに言った。



「君も許可証にサインがもらえなかったの?」


「もらえなかったというか……話すタイミングを逃しまくった感じ。母さん、なにかに熱中してたり機嫌が悪かったりすると、ろくに話を聞いてくれないから」



 淡々とした調子で答えたリンに、ハリーはなんと言おうか迷ったが、結局「そっか」とだけ返して、話題を流した。



「今日なにするか、予定はある?」


「ううん、特にない。暇なら本でも読もうかと思ってたくらい」



 読書と聞いてハリーが微妙な顔をしたので、リンは笑った。



「でも、そうだね、せっかく友人と一緒だし、もっと活動的なことをしようかな」


「活動的? 学校探検とか?」



 二人は顔を見合わせて沈黙した。探検なら、昨年度、イヤというほどした。禁じられた森へも入っていったし、誰も知らない、伝説と言われていた「秘密の部屋」まで見つけ出した。


 確かにホグワーツにはまだ知らない場所がありそうだが、今日それを探すのは少し遠慮したい。ただでさえ城の警備が固いというのに、フラフラほっつき歩いているのが見つかったら厄介だ。



「えーと、じゃあ、ふくろう小屋に行こうか? 僕、ヘドウィグに会いたいし」



 ハリーが提案すると、リンは表情を明るくした。



「あの綺麗な子? 私も会いたい」



 二人は並んで階段を上っていった。他愛もない会話を楽しみながら廊下をいくつか歩いていると、とある部屋から声がした。



「リン? ハリー?」



 二人は顔を見合わせたあと、後戻りして声の主を探した。リンが先に見つけた。



「ルーピン先生」



 どことなく嬉しそうな声にハリーが振り向くと、ルーピンが、彼の部屋らしきドアから顔を出していた。驚くほどの速度で、リンが彼に駆け寄り、なにやら話しかける。ハリーには、その内容は聞き取れなかった。


 彼らに近寄っていってもいいのだろうか。ハリーが悩んでいると、ルーピンがハリーの方を見た。ばっちり目が合い、ルーピンが微笑む。



「二人とも、ちょっと中に入らないか? ちょうど次のクラス用のグリンデローが届いたところだ」


「なにがですって?」



 ハリーはリンと一緒に、ルーピンに続いて部屋に入った。部屋の隅に大きな水槽が置いてある。鋭い角を生やした、気味の悪い緑色の生き物が、ガラスに顔を押し付けて、百面相をしたり、細長い指を曲げ伸ばししたりしていた。



「水魔だよ」



 興味津々で見つめるリンの頭を撫でて、ルーピンが言った。



→ (4)


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