お茶の葉 (7)



「よく笑ってられるな ――― 死神犬だぜ? 死の予兆! お先真っ暗じゃないか!」


「そう?」



 感性を疑うと言わんばかりのロンを見て、リンが首を傾げて言った。



「私はべつに平気だけど……でもそうだな、取り憑いてるのがピーブズだって言われてたら、確かに『お先真っ暗』だと思っただろうなぁ……」



 しみじみと言うリンに、ハリーたちはまた笑った。今度はネビルまでが、曖昧に ――― だが確かに笑った。ロンは真っ赤になって「ふざけてる場合じゃないぞ!」と怒鳴った。リンは肩を竦める。



「でも、ロン。真面目な話、『死』を予告されて絶望する必要がどこにあると? 『死』なんて、誰だっていつかは必ず迎えるものでしょう? 自然現象なのだから、べつに恐れることはないって、母さんがしょっちゅう言ってる」


「恐れることはない? 恐いに決まってるじゃないか!」



 ロンが叫んだ。ハリーはふと、いまや廊下にいる生徒全員の視線がリンたちに集まっていることに気づいた。死を予言された生徒が二人も揃っているので、みんな興味津々だ。


 向けられる視線に気づいたらしいリンは、再び肩を竦めた。



「……私、お手洗いに行きたいんだけど」



 みんなの身体から力が抜け、危うく膝から床に崩れ落ちかけた。なぜこのタイミングで言うのか……三年目の付き合いになる面々にも、未だにリンの性格が掴めない。



「……でもその前に、ロン。一つ教えておくよ」



 場の雰囲気を少し壊したあと、リンは微笑んだ。



「ある『もの』を人が恐れるとき、人はその『もの』に恐れを抱いているのではなく、その『もの』から連想するものに対して恐れを抱いているんだよ」


「……は?」



 呆然としているロンに軽く手を振って、リンは「お手洗い行ってくる」と踵を返す。みんな、遠巻きに傍観している者たちも含めて全員が、無言で見送った。



「……いまのって、どういう意味?」



 しばらくしてから、シェーマスが言った。期待顔で周りを見回したが、誰も答えない。ハリーはハーマイオニーを見た。なんと、彼女は満面の笑みを浮かべていた。



「さすがリンだわね」



「なあ、ハーマイオニー。あれは、つまりどういう意味だったんだ?」



 そわそわとディーンが聞いた。ロンも含めた全員がハーマイオニーを見つめる。視線を集めて、ハーマイオニーはちょっと得意そうにした。



「そうね……つまり、『死』そのもの自体は、人を恐怖に陥れるようなものじゃないってことよ」



 さらに謎めいた言葉を残し、ハーマイオニーは「私もトイレに行ってくるわ」と言い、足取り軽く歩いていった。



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