スリルとリスク (1)



 新学期初日の授業は、いろいろな人にとって、悪い意味で衝撃的だった。


 たとえば、死の予言を受けたハリーとリンにしたら、「占い学」は傍迷惑だったし、「魔法生物飼育学」は、ハグリッドやマルフォイにとって惨憺たる結果になった。


 そのおかげで、レイブンクローと合同の「魔法生物飼育学」初の授業では、ハグリッドの元気が皆無だった。レイブンクロー生が教科書を読んできていないと報告しても、何も言わなかった。対照的に、リンは少し驚いた。



「読んでこなかったの? 予習好きのレイブンクロー生が、珍しい」


「こんな教科書じゃ無理もないと思うけどね」



 自分が持っている、革紐で拘束した「怪物的な怪物の本」を見ながら、アーニーが苦笑いした。しかし、ジャスティンから「リンは読んだのですか?」と尋ねられたリンが頷くと、ぎょっと目を丸くする。



「いったいどうやって? まさか、君には噛みついてこなかったのかい?」


「ううん。噛みつかれかけたよ。それで、ついイラッときて、うっかり二つに裂いちゃった」



 そうしたら、直したあとも、もう噛みつかなくなった。


 淡々と言うリンに、アーニーとほかのクラスメイトが微妙な顔をした。ただ一人、ジャスティンだけは「さすがリン!」と褒め称えていたが。



「あー……リン、そんなことせんでも、撫ぜりゃあ大人しくなるぞ」



 意気消沈していたハグリッドも、さすがに我に返って言った。リンは「あ、そうだったの?」と瞬く。その顔に、後悔や反省、同情といった類の色は見られない。



「……僕、この授業についていける自信ないよ」



 レイブンクローの集団の中から、そんな声が聞こえてきた。しっかり聞き取ったアーニーは、心の中で同意を示した。



「ところで、ハグリッド、その箱の中身は何なんだ?」



 そろそろ授業を始めてほしいと、テリー・ブートが尋ねた。そこで、ハグリッドが、ようやく自分の職務を思い出したような顔をした。



「フロバーワームだ」



 生徒たちが首を傾げたのを見て、ハグリッドは「レタス食い虫だ」と説明を加えた。たしかに、イモムシのような見た目をしていて、色はイモムシよりケバケバしいが、なんとなくレタスを食べそうだとは思える。



「こいつらにレタスをやるのが、今日の授業だ」


「わぁ、退屈そう」



 リンが呟いた。しかし、ほかの生徒たちは、それで十分だという雰囲気だった。どこからか、「ヒッポグリフをけしかけられはしないみたいだな」「安心、安心」「むしろ、ヒッポグリフを出してきたら神経を疑うわ」という囁き声が聞こえてくる。


 囁き声を拾ったのか、一気に暗くなったハグリッドの顔を見て、リンは眉を寄せた。



→ (2)


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