意外な反応 (4)



「……あ、えっと……あ……あり、がとう」



 固い動きで、ギクシャクとリンは「贈り物」(むしろ「献上品」だとスイは思った)を受け取った。ノットは(スイから見て)蕩けるような表情を浮かべる。それを正面から見下ろす形で見てしまったリンは、頬を引き攣らせた。



「………あの、さ」


「……なにか?」



 ぎこちなく声をかけると、ノットは片膝を床につけたまま、リンを見上げて首を傾げた。頼むから誰か助け舟を出してくれと内心で焦りつつ、リンはノットに頼んだ。



「とりあえず、あの……立ってくれない?」



 あまり交流のない人を公衆の面前で跪かせるのは、ハッキリ言って、ものすごく居心地が悪い。良心が呵責してくるのだ。交流が深くても誰もいない場所でも嫌だが。


 リンが必死なことに気づいたのか、跪いているのに疲れたのか、リンの命令には絶対服従だと思っているのか(これが一番可能性が高いとスイは思う)なんなのか、ノットはすんなり従った。リンがホッと息をつく。



「え……と、ノット? 昨日も言ったけど、私は恩を売ったつもりもないし、貸しを作ったつもりもない。結局は自己防衛に走ったわけだから、君は別に、」


「貴女は逃げることだってできた」



 ノットが遮った。リンを遮ったことに意外性を感じ、スイは瞬きを繰り返した。ジャスティン・フィンチ-フレッチリーのように、ただひたすらにリンを崇拝し、彼女の一挙一動に魅入り、彼女の一言一句を傾聴する、というわけではないらしい。



「貴女は、その気になれば、僕らを見捨てて逃げることができた」



 ノットが繰り返したセリフに、スイは「確かにそうだ」と納得する。あのとき吸魂鬼はマルフォイとノットを標的にしていて、リンが杖を向けるまで、リンやスイに気づいた様子はなかった。


 誰もが嫌うスリザリン生二人を助けるより、大人しくコンパートメントに引っ込んで見なかった振りをすることだって、当然リンにはできたのだ。ほかの人だったらそうしただろう……と言っても、ほかの人だったらまず、あの状況で通路に出ていこうとしなかっただろうが。



「貴女は、僕らが助けを求める声を聞いて、ドアを開けて通路に出てきてくれた……ほかの誰も、僕らにドアを開けてはくれなかったのに」


「まったくよ。おかげでアタシら死ぬかと思ったわ」



 いつの間にか硬直が解けていたベティが毒づいたが、ノットは無視した。



「救ってくれたあとも、貴女は僕らを優先してくれた……チョコレートを僕らにくれた。貴女こそが食べるべきだったのに」


「いや、君らと別れたあとで食べたし……」


「そこまでしてくれたのに、貴女は、僕らを助けたつもりはないと言った」



 ノットはまたもやリンを遮った。やっぱりこいつスリザリン生だとスイは思った。つかもう帰れとスイが尻尾を神経質に振ったとき、ノットが深く息を吸った。



→ (5)


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