意外な反応 (3)



「えっと、中断しちゃってごめん」


「……いや」



 気にしてない風情で首を緩く振り、ノットは改めてリンを見据えて「贈り物」を差し出してきた。リンは首を傾げる。呪いがかけられているとか、そういう危険な感じはしないが、彼に「贈り物」をされる理由が分からない。



「……私に?」



 失礼にならない程度に探りを入れると、ノットは無言で、しかし力強く頷いた。リンはどうしたものかと悩んだが、大広間中の視線が集まっていたし、スイが尻尾で背中を叩いてきたので、大人しく受け取っておくことにした。



「あの、ありがとう」



 曖昧に笑ってリンが箱を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、ノットが突然、「贈り物」を持っていない方の手で、リンの手を取った。リンとスイが目を丸くする傍ら、ジャスティンとハリーが動き出したが、すぐに動きを止めることになった。



「………え?」



 呟いたのは誰だったのか分からないが、それは大広間にいる(ノット以外の)全員の気持ちを代弁していた。みんな呆然とした顔でその光景を見ている。


 ノットが恭しくリンの足元に跪〔ひざまず〕き、目を閉じて、彼女の手の甲にそっと口付けを落としていた。



 ………なにあれ? いったい何事? そんな顔が、たくさん見える。セオドール・ノットを除くホグワーツ生全員の心が一つになった初めての瞬間かもしれない……真っ先に冷静さを取り戻したスイが思った。


 本当はいますぐにでも「ボクの目の前でリンになにさらしとんじゃボケェエ……!!」と叫びたい気分だったが、如何せん、いまは小猿の姿、かつ公衆の面前。言葉を発するわけにはいかない。


 スイがもどかしさを感じていると、ノットがようやくリンの手から唇を離して、顔を上げた。彼の表情を見て、スイは一瞬ですべてを悟った。



「……貴女は、僕の命を救ってくれた」



 硬直しているリンを、熱の籠った目で真っ直ぐに見つめて、ノットが囁くように言った。声自体は小さいのだが、大広間がかつてない程に静まり返っているので、余裕で聞き取れる。もしかしたら教員テーブルの方まで聞こえているかもしれない。



 スイの予想はほぼ当たっていた。ダンブルドアを筆頭に、ほとんどの教師が、穴の開くほどリンとノットを興味津々で見つめ、一言一句漏らすまいと耳をすましている(というより魔法で聞き取っているのかもしれない)。



「昨日、吸魂鬼に襲われかけた僕を、貴女は救ってくれた……この恩は、決して忘れない」



 衆人環視の元、ノットはもう一度リンの手の甲にそっと唇を落として、名残惜しそうにリンの手を離し、「贈り物」を両手で持って、リンに差し出した。


 なんの儀式だよ。スイは言いそうになったが、懸命に堪えた。ノットから視線を外してリンを見ると、彼女はまだ硬直していた。状況把握ができていないらしい。


 スイはヒョイと尻尾を振って、リンの背中をパシパシと軽く叩いた。その衝撃で、リンが我に返る。ただし、混乱した表情のままだ。助けを求めるようにスイを見てくるので、スイは溜め息をつき、「もらってやれよ」と意味を込めて、再びリンの背中を叩いた。



→ (4)


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