吸魂鬼 (2)



「早く行かないと、席がなくなるぞ」


「あ、はい」



 これ幸いと、リンは彼に従った。クリービー一家に簡単に挨拶をして、リンは熱っぽい視線から逃げるように、ジンの後を追って歩き出す。



「……すいません、ジン兄さん。足止めしてしまって……」


「いや、特に気にしてない……リンは、ずいぶん人に好かれてるんだな」


「原因は不明ですけどね」



 肩を竦めて、リンは困ったように笑う。そのときだ。



「リンッ!」



 今度はなんだとリンは振り返った。それと同時に、赤色が彼女に衝突する。思わぬことに、リンがよろめいて倒れそうになる。それに目を剥いたジンが、一歩踏み出して手を広げ、受け入れ体勢を取る。しかし、別の二本の腕が彼女を支えたため、必要がなくなった。



「 ――― おっと! 大丈夫かい、リン?」


「危なかったなあ……ジニー、気をつけろよ」


「だって、リンに会えて嬉しくて……ごめんなさい、リン」


「いや……いいよ、ジニー。大丈夫だから。フレッドとジョージも、ありがとう」



 背後で寂しそうな顔をして腕を下ろしたジンには気がつかず、リンは、抱きついている少女と、支えてくれた腕の主たちを見て笑った。



「久しぶりだね。『日刊予言者新聞』読んだよ。エジプトはどうだった?」


「すばらしかったさ、なあ、フレッド」


「ああ。ただ、パーシーをピラミッドに閉じ込められなかったことが心残りだな」


「ご愁傷様だね……パーシーからしたら幸運だったろうけど」



 赤毛の三人と楽しそうに談笑を始め、駆けてきたウィーズリー夫人から熱い抱擁とキスを受け、頬を染めてワタワタと焦るリンを、ジンが静かに見つめていたことは、リンの肩から彼の肩の上へと避難していたスイしか知らない。




**


 ふと目を覚ますと、ハッフルパフのいつものメンバーが話に花を咲かせているのが分かった。リンは疑問を感じたが、すぐに、自分がホグワーツ特急のコンパートメントにいるのだと思い当たった。いつの間にか寝てしまっていたらしい……珍しいこともあるものだ。客観的に思う。


 リンがゆっくり静かに起き上がって小さく欠伸をすると、リンの向かいに座っていたジャスティン・フィンチ‐フレッチリーと、なぜか彼の肩に乗っていたスイが、真っ先にリンが起きたことに気づいた。スイがジャスティンの肩からリンの膝の上へと飛び移り、ジャスティンがリンに微笑みかける。



「おはようございます、リン」


「……ん……おはよう」



 ぼんやりした調子で髪を掻き上げ、寝起き特有の少し掠れた声を出したリンに、ジャスティンは頬を染めて水を差し出す。リンは軽く礼を言って受け取り、喉を潤した。



→ (3)


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