吸魂鬼 (1)



 従兄の様子が、少しおかしい。そう思ったのは、彼がいつも通りリンを迎えに来たときだった。



「…………」



 無言でキビキビと歩くジンの横顔を、リンはそっと見上げた。気のせいだろうか、相変わらずの無表情が、普段より硬く見える。歩くスピードだって、普段より速い。彼の隣を歩くリンは、半ば駆け足だ。


 ジンは、周囲からの視線を気にせず、九番線と十番線の間にある柵へと歩いていく。いつもだったら、心持ち多少は周りを確認してから柵を通り抜けるのだが……今日はあまり余裕がないらしい。


 本当に、何かあったのだろうか? 心配しつつも、リンは黙ったまま、ジンの後に続いて柵を通り抜けた。マグルの誰かに見られはしないかと冷や冷やする……なんてことはない。その心配をしていたのはスイだ。



「……君らさあ、もっと慎重になりなよ。ただでさえ注目浴びやすいんだから」


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。九番線の列車が発車寸前だったから、みんなそっちに気を取られてたはずだし……それに」



 もっと派手に来る人だって、絶対にいる。


 リンがそう言うが早いか、たったいま彼女たちが通り抜けてきた柵から、悲鳴が聞こえてきた。何事だとスイが振り返ると、薄茶色の髪の集団が現れた。大声(歓声?)を上げながら柵を駆け抜けてきたらしく、全員が息を切らしている。大注目を浴びているその集団のうちの一人は ――― コリン・クリービーだ。



「あっ、リン!」



 気づかれないうちに静かに去ろうとしていたリンだったが、残念ながら目ざとく見つけられてしまった。溜め息をついて振り返ると、キラキラ輝いた目とかち合う。



「うわぁーっ! リン、久しぶりです! 元気ですか? 新学期最初の日からあなたに会えるなんて、僕、すっごくラッキーだ!」


「やぁ、コリン、元気そうだね」



 明らかな愛想笑いを浮かべて当たり障りのないことを言うリンだったが、コリンの方は、リンに返事をもらえただけで嬉しいらしい。頬を染めて近づいてくる。



「ねえ、リン、見て! 僕のパパです!」



 どことなくコリンに似た男性が会釈をしてきたので、リンもお辞儀を返す(スイはバランスを崩しかけ、慌てて肩にしっかり掴まった)。リンが頭を上げるか上げないか、コリンがリンの腕を掴んで引っ張った。



「あと、デニス! 僕の弟です! パパの後ろに隠れてるけど……ほら、デニス!」



 その言葉通り、父親の後ろから、薄茶色の髪の、コリンよりさらに小さな少年が、ひっそりと顔を覗かせていた。兄に名前を呼ばれて、ようやく顔を出した感じだ。リンと目が合うと、一瞬で顔を赤くして、また父親の後ろに引っ込んだ。



「デニスは、僕と同じで、あなたのファンなんです! 手紙であなたのことを話してから、ずっとあなたに会いたがってました!」



 笑顔のコリンのセリフに、リンは頬を軽く引き攣らせた。スイは「よかったね、そしてドンマイ」と彼女の頬に触れてやった。


 コリンに頼まれ(せがまれ)るままデニスに挨拶をし、一緒に写真を撮ってやっていると、それまで数歩先で事態を傍観していたジンが近寄ってきて、リンに声をかけた。



→ (2)


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