彼らが恐怖を抱くもの (2)



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「……かみなり……」



 荒れた天候を窓越しに見上げ、由乃 凛は、溜め息混じりに呟いた。

 まったく、朝から嫌な天気である。洗濯物は外に干せないし、家畜も怯えるだろうし、畑で育てている薬草なども、ひょっとしたら成長に影響が出るかもしれない。……それに、雷を見ると、“あの日”のことを思い出す。



「…………」



 こつん。凛は窓に額を当てた。ひやりとした温度が、額の熱(もともと凛の体温は高い方ではないのだが)を奪っていく。パラパラ、雨粒が窓ガラスに当たる音を聞きながら、凛は物憂げに溜め息をついた。



「……凛? どうした? 元気ないね」



 横から声をかけられて、凛は振り返った。彼女の横にある棚の上に、小さな猿が乗っていた。不安そうに、というか心配そうに、少し首を傾げてこちらを見ている。



「どこか具合でも悪い?」


「……ううん、大丈夫だよ、スイ。なんていうか、いまはちょっと……アンニュイ?」


「それは大丈夫と言わないし、アンニュイなのは見れば分かるし、そもそもボクはアンニュイになってる理由を聞いたんだけど」


「驚き。具合が悪いのかという問いかけに、それだけの意味が含まれてるとは知らなかった」


「いや驚くのはこっちだよ。まさかそんなレスポンスが返ってくるとはね」



 溜め息をついたあと天を仰ぐ小猿に、凛は首を傾げた。自分のレスポンスのどこがおかしいんだろうか、という心境である。



「それよりスイ、実は今日、母さんと一緒に魔法薬を作るんだよ。すごくない?」


「安定のマイペースだな」



 呆れ顔のスイをさらりと無視して、凛は「置いてくよ」と歩き出す。スイは、慌てて彼女を追いかけた。







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冒頭から変に暗くてすみません



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