彼らが恐怖を抱くもの (1) *ちらっとですが、5 , 6 行目に、グロい表現があります。苦手な方はご注意。* 雷は、どうしても好きになれぬものだった。 雷は、恐ろしい記憶を呼び覚ますものだった。 雷は、過去に犯した忌まわしい罪の象徴だった。 目の眩むような雷光、轟く雷鳴。 焦げた、裂けた、焼かれた、髪や衣服や肉。 身体から滴った血や、そこから漂ってきた独特の香り。 あの日味わった恐怖を思い出す。 あの日刻んだ記憶が蘇る。 あの日犯した罪の意識が呼び起こされる。 雷は、決して忘れさせてくれない。 無知と、あくまで無邪気な幼心が引き起こした罪を。 生涯、消えることも許されることもない、重い罪を。 日本というアジアの小さな島国。とある大きな森の近くにある、これまた大きな屋敷の一室で、由乃 仁は目を覚ました。 「……はぁ……っ、は……」 呼吸が荒い。耳の奥で、心臓の音がうるさい。じっとりと、嫌な汗が全身に纏わりついている。よろしいとはいえない目覚めである。 仁は起き上がった。久しぶりに、幼い頃の夢を見た……片手で顔の下半分を覆い、その掌で顔をぬぐうように、ゆっくりと顔を俯ける。そして仁は、目尻から耳まで繋ぐように涙が流れた跡があるのに気がついた。泣いていたらしい。 涙の跡を適当に手で拭っていると、窓の外から、耳をつんざくような鋭い雷鳴が聞こえてきた。一瞬びくりと身体を竦めて、仁は窓の外を見やった。 「……雷、か」 なるほど、だからあんな夢を見たのかと納得する反面、不安になる。これだけ雷鳴が轟いていて……彼女は大丈夫なのだろうか? “あの日”のことがフラッシュバックしていないだろうか。 「……凛……」 仁はそっと、吐息に溶かすように、彼女の名前を呟いた。無意識ながら、彼の手はシーツをきつく握り締めていた。 → (2) |