眼光の呪い .2



「え……っと、あの、スイ……?」



 困惑するジャスティンを放置して、スイは、身体をジャスティンの頬に寄せてきた。温かい……と思いきや、冷たい。ジャスティンは飛び上がった。



「ちょっ、大丈夫ですか?! 冷たい! やめて! 僕で暖を取ろうとしないで! ひっ!!」



 ガタガタ震えながら首元にまで身体を寄せてくるスイを、申し訳ないが少々乱暴に引き剥がし、ジャスティンは胸元で抱き締めてやった。すると、スイも満足なのか、大人しくなる。


 ジャスティンは長く溜め息を吐き出した。周りの生徒が、同情するかのような目で見てくるのには、生憎と気づかない。とりあえず、ローブを手繰り寄せ、スイを包み込む。



「まったく……どうしてリンと一緒にいないんですか、スイ。こんなところに一人でいたら、凍えるに決まっているでしょう」



 言いながら、ジャスティンは、暖炉の近くを占拠している生徒たちを軽く睨む。なんと心ない人間たちだ。リンが大切にしているものを大切にしないなんて! もっと早く談話室に来ればよかった。


 スイの背中を擦ってやりながら、ジャスティンは思案した。さて、これからどうしようか。スイのおかげで、恐怖は吹き飛んだ。このまま、リンのところへ行こうか……そうした方が、いい気がする。だって、リンの傍が一番安全なのだから。


 大丈夫だ。素早く走って、誰にも見つからないうちにリンのところにたどり着けばいい。最悪、彼に見つかっても、リンの元まで逃げ切れば勝ちだ。


 決意したジャスティンは、一応その旨をスイに伝えてから、スイを抱えたまま寮を出た。ドアが閉まると同時に、駆け出す。スイが悲鳴じみた声を上げたが、気にしない。


 ひたすら無心で、階段を駆け上がる。エレベーターか、エスカレーターがほしい。心の底から思った。いや、しかし、もうすぐだ。


 目当ての階に到達し、今度は廊下を走り抜ける。二つめの角を曲がったところで、ジャスティンとスイの身体は衝撃を受けた。ぶつかった、のではなく、冷水を浴びせられたような ――― 。


 思わず、勢いが弱まり、ゆっくり、ふらふら、立ち止まる。一気に冷えた身体に、隙間風が突き刺さる。ジャスティンとスイは揃ってガタガタ震え出した。



「だ、大丈夫ですか?」



 ゆっくり顔を向ける。慌てた様子の「ほとんど首無しニック」が、ふわふわ浮かんでいた。どうやら、彼の身体を通り抜けてしまったようだ。



→ (3)


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