眼光の呪い .1



 怖い。恐ろしい。どうして僕が。襲われる。殺される。嫌だ。死にたくない。


 ――― 怖い。


 ガタガタと震えながら、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーは、部屋の片隅にいた。しゃがみ込んで、頭から被ったシーツを握り締め、ぎゅうと目を瞑っていた。

 頭の中で、親友の言葉が再生される。



『いいか、ジャスティン。じっと部屋に隠れてるんだ。部屋から出なければ、ポッターだって、君を襲えやしないさ。あいつはハッフルパフ寮に入れないし、もし入れたとしても、どの部屋に君が隠れてるかなんて、分かりっこないんだから』



 そんなことで、本当に身を守ることができるんだろうか? マグルの世界だって、こうして逃げても、殺されてしまうことがあるのに? ましてや、ここは魔法の世界だ。自分の居場所など、簡単に見つけられてしまうんじゃないだろうか。

 だけど、魔法族出身のアーニーが言うなら、従えば、望みはあるような気がする。


 シーツを掻き集めて、ジャスティンは、さらに身体を縮こまらせた。膝に額を押しつける。寒い。今日は大雪だ。おかげで、いつもより薄暗い。


 薬草学が休講になったのはラッキーだった。彼と顔を合わせずに済んだのだから。でも、みんなと一緒にいた方が、ひょっとしたら安全だったのではないだろうか。昨日だって、ヘビをけしかけられたが、周りの生徒が騒ぎ出したら、やめてくれた。それに ――― そうだ。リンが、助けにきてくれた。



「……リン……」



 ジャスティンは、のろのろと顔を上げた。彼女は、いまどこにいるのだろう? 談話室か、図書館か、どちらかだ。


 数秒じっと考えたあと、ジャスティンは立ち上がった。ここに一人でいるより、リンの傍にいた方が、絶対にいいと思った。大丈夫だ。寮には、彼は入ってこれないのだから。

 どうかリンが談話室にいますように。そう祈りながら、ジャスティンは静かに部屋を出た。



「……いない……」



 談話室には、かなりの人数の同級生たちがいた。しかし、その中に、リンの姿はなかった。アーニーたちも見当たらない。みんなで図書館に行ってしまったらしい。ひどい。声をかけてくれればいいのに。


 真っ青な顔で突っ立っていると、何人かの生徒が優しく声をかけてくれた。ぎこちなく応答をしていたとき、そっと、ジャスティンの手に何かが触れた。


 吃驚して、手を引っ込める。視線を下に向けると、そこには、スイがいた。テーブルに座り、ジャスティンを見上げている。ジャスティンは、身体の力を抜いた。



「……スイ……お、おどかさないでください……」



 胸に手を当てて言うと、スイは、明らかにしょんぼりとした。尻尾が垂れ下がる。それを見て、ジャスティンは慌てた。スイは、リンが一番大切にしている存在だ。悲しませたら、リンに申し訳が立たない。



「ち、違います、スイ! 少し驚いただけで、その、わ!」



 突然、スイがジャンプした。ジャスティンの服を掴み、器用に伝い、肩に乗ってくる。すごい身のこなしだ。さすが猿……ジャスティンは、思わず感心した。そして、すぐに我に返る。



→ (2)


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