一センチ分の憂鬱 .3



「そっ、そう思われますか? 本当に?」


「嘘なんて言わないよ。ポッターはラッキーだ」



 ニックは感激に打ちのめされた。頬を白く(おそらく、生身の人間でいう赤に)染めて「よかった……!」と呟く。スイは、知らないところで選択肢を奪われたハリーに同情した。



「私も見てみたいなぁ」



 リンがポツリと呟いた。その言葉に、ニックが瞠目する。スイは目を剥き、リンの腕を尻尾で叩きまくる。だが、リンは無視をした。



「ねぇニック、私も行っちゃだめ?」


「いけませんとも」



 首を横に振ったニックに、今度はリンが目を丸くした。スイも尻尾の動きを止める。ニックはまっすぐにリンを見つめていた。



「あなたは、学校のパーティーに出るべきです。先ほども言いましたが、きちんと栄養ある食事を取っていただかねば困ります」


「一晩くらい平気だよ」


「いいえ。ダメですよ、リン」



 キッパリとしたニックの口調に、リンは肩を竦めて引いた。どうやら諦めたらしい。リンには悪いが、スイはホッとした。あんなところに連れていかれたら、たまったものではない。

 胸を撫で下ろすスイを肩に乗せたまま、リンはニックを見上げた。



「ところで、ニック、ずっと気になってたことを聞いてもいい?」


「ええ、どうぞ。私が答えられることでしたら、なんなりと」



 ちょっと驚いた顔をしつつも、ニックは笑顔で頷いた。スイは、なんとなく変な質問が出てくる予感を抱いたが、当然、何も言えない。

 尻尾を揺らすスイの横で、リンは口を開いた。



「ゴーストって、どうやって手紙を出すの?」



 手紙を届けるフクロウのゴーストでもいるのか。それとも、霊力か何かで、手紙が勝手に飛んでいきでもするのか。そもそも、手紙はどうやって書いているのか。羊皮紙やインクが、ゴーストの世界にも存在しているのか。あるとしたら、それはどのように生産されているのか。


 ポンポン、なんとも微妙な質問を出してくるリンに、「ほとんど首無しニック」はしばらくポカンとしていた。

 あれには参ってしまった ――― というニックの言葉を、彼の友人である「太った修道士」が聞くのは、その翌日のことであった。






****

 特に意味はない話。絶命日パーティーに参加したがる、変人なリンを書きたかっただけ。で、その参加フラグを折っただけ。
 妙にゴーストたちとも仲良くて、過保護されてたりするといい。なにせ、ふわふわ、ぼんやり、変に地に足がついてないから。
 そのうち、レディとか男爵とかと絡ませてみたい。




→ 眼光の呪い
 (ジャスティンが石化する話)



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