飛行訓練 .3 「ボーッとしてないで、みんな箒の側に立って! さあ!」 キビキビとした声に促され、生徒たちは箒に近づいた。 リンはハンナの隣に立ち、自分の箒を静かに見下ろす。少し古いもので、小枝が何本か変な方向に飛び出している。 「リン、その箒で大丈夫ですか?」 正面にいたジャスティンが、リンの箒を見下ろして、気遣わしげに言った。 「小枝が、まるでベティの髪のように跳ねていますが……」 「おいこらそこのカール頭、どういう意味だ」 「そこ、私語をしない!」 ベティがジャスティンに突っかかったが、マダム・フーチが目ざとく気づいて、ピシャリと注意した。 一人だけ怒られて、ベティはムッとする。そんな彼女を鼻で笑うジャスティンに、リンは視線を向ける。ジャスティンは笑うのをやめた。 「……ものを見かけで判断してはいけない」 リンは、ジャスティンからベティへ、それから箒へと視線を移して呟いた。 「一見しただけで、そのものの能力や価値、本質を知れるわけがない。それらは実際に触れてみなければ分からない。だから最初は、信じて、自分から歩み寄らなければならない」 ジャスティンは恥じ入った顔をした。リンは緩く微笑む。 「私の祖父の教訓なんだ。 ――― 大丈夫だよ、この箒は、ちゃんと飛んでくれるから」 「右手を箒の上に突き出して!」 リンが言い終わると同時に、マダム・フーチが、生徒の頭越しに指示を出した。 「そして、意識を箒に集中させて『上がれ!』と言う」 みんなが一斉に「上がれ!」と叫んだ。 → (4) |