飛行訓練 .2



「理由も何も……そもそも箒なんて、乗らなくても生きていけるでしょう?」


 ……なるほど。つい納得する三人(ハンナを含めて)である。


 必要不可欠でないことは、別にわざわざしようとは思わない。確かにリンはそういう性格の持ち主だ。


 三人(と、「さすがリン、言うこと一つ一つに重みがありますね」とわけの分からない称賛をするジャスティン)とは反対に、ベティは納得がいかないようだった。


「移動手段として大切でしょーが」


「うち箒では移動しないからね」


 そう言ったあと、リンはバターを塗り終わったトーストを頬張った。


 日本には、箒で空を飛ぶという概念は、あまりない。移動手段としては、もっぱら式(または式神)を使う。


 ヨシノの本家には、一応、何本か箒があるらしいが、リンの家には、ナツメが箒での飛行を好まないため、箒は一本もない。単なる掃除用の箒ならあるのだが、当然、それでは飛べない。


「それより早く食べたら? もう一限まで時間ないよ」


 もう八時半だとリンが告げると、みんな急いで食事を再開した。


**


 午後三時半、リンたちは飛行訓練を受けるため校庭へと向かった。


 今日の授業はレイブンクローと合同だ。リンたちが行くと、レイブンクロー生は全員揃っていた。


「え、何アイツら。『姿現わし』でもしたの?」


 ベティが信じられないという顔で言った。リンたちは授業が終わってすぐ、他のハッフルパフ生よりずっと早くに教室を出たので、そんな自分たちより早い彼らに驚いていた。


「ホグワーツでは『姿現わし』はできないわ」


 スーザンが言うと、ベティは眉を吊り上げた。


「じゃあ、どうやって短時間でここまで来たっていうのよ」


 その答えはスーザンも分からないらしく、黙り込んだ。ハンナたちも困惑している。


 リンは冷静に、そして呆れたように言った。


「いや、普通に、前の授業が早く終わったとか、そんなところじゃないの?」


 五人が一斉に「目から鱗が落ちる」という顔をした。なんでその考えに思い当たらなかったんだろうか。


 リンが内心で「みんな大丈夫か」と思っていると、マダム・フーチが到着した。


→ (3)


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