世界が変わった一番の出会い(後日、本人談).2



「………わ」


 驚嘆の息とも歓声とも言えない、妙な声が口から漏れる。


 ジャスティンは呆然と目の前の光景を眺めた ――― ピーブズが身体を「く」の字に折り曲げて、口の中から泥の塊を吐き出している。口の中だけじゃなくて、顔全体が泥だらけだ。


 ちょっといい気味だとジャスティンが思っていると、ピーブズがこちらを睨み付けてきた。


「よくもやってくれたな!!」


「……自分が他人〔ひと〕にやったことでしょう」


 呆れを含んだ声が後ろから聞こえてきて、ジャスティンとアーニーは振り返った。一人の女子生徒が、冷めた目でピーブズを見上げていた。


 ジャスティンは瞬いた。この生徒には見覚えがある ――― リン・ヨシノ……授業で度々活躍し、入学してまだ間もないのに、もういろいろと噂されている優等生だ。


「因果応報なんだよ。やったことは必ず自分に返ってくる。自業自得ってこと」


「うるせぇやいっ!!!」


 生徒に諭されて気を悪くしたのか、ピーブズが癇癪を起こし、まだ残っていたらしい、今までで一番大きな泥団子を、腕を大きく振りかぶって、リン目掛けて投げつけた。泥団子が、勢いよく飛んでいく。ピーブズが高笑いする。


 危ない! と、ジャスティンとアーニーが同時に叫んだが、リンの方は平然としていた。ふうと溜め息をついて、ひょいと手を前に翳〔かざ〕す。


 すると、泥団子が突然進路を変えた。ぐるりと大きく円を描いてUターンをし、その反動で三つに分かれ、そして ――― ピーブズの目、鼻(の穴)、口に、それぞれ命中した。


 予想外のことに、ピーブズはもんどり打って後ろに倒れ込み、泥と一緒に悪態を吐き出しながら、ズーム・アウトして消え失せた。


「………すごい」


 アーニーが驚嘆した。ジャスティンも、声こそ出なかったものの、感嘆していた。


 すごい。監督生たちや先生方でも手を焼くと言われているピーブズを、いとも簡単に追い払ってみせるなんて ――― 本当に、自分と同い年なのだろうか? とにかく、すごい。


 ジャスティン(と、おそらくアーニーも)が内心で興奮していると、リンが二人に近づいてきた………と思ったら、二人の脇をすり抜けた。


「……………え」


 呆然とした声を上げたのは、ジャスティンとアーニー、果たしてどちらだったか。ひょっとしたら二人共かもしれない。


→ (3)


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