汽車の中で(2)



「誰がそう言ったんですか?」


「ウッドとマダム・フーチ」



 百味ビーンズをハンナたちに(勝手に)勧めながら、エドガーが言った。



「一年生のときの飛行訓練が、そりゃもう素晴らしかった! ってさ」



 リンが苦虫を噛み潰したような顔をしたのを見て、エドガーが吹き出した。セドリックも微笑んでいる。


 エドガーは、笑いながら百味ビーンズをまた頬張ったかと思うと、顔色を変えて水に手を伸ばし、急いでそれを飲んだ。変な味に当たったらしい。「色からしてゲロ味でしたよね」と、ジャスティンが冷静に、というか辛辣に言った。


 あまりに勢いよく飲んだために口から顎に伝った水を手の甲で拭き取り、エドガーは、なんとか爽やかに笑ってみせた。



「リンは身のこなしもいいなって、ずっと思ってた」



 初めて会ったときとか、決闘クラブのときとか、と指折り数えるエドガーに、セドリックも頷く。



「小柄で身軽だから、僕よりピッタリかなって思ったんだ」


「何かを探すのも得意そうだし」



 どうかと尋ねられ、リンは逡巡した。


 別にやりたいわけじゃないが、どうしてもやりたくないわけでもない。おもしろそうだと思う。しかし、来学期は多くの授業を受けなくてはならないので、練習が負担になりそうな気もする。それに、自分よりやりたいという人はいるだろう。


 沈黙して考え込むリンを見て、セドリックが眉を下げた。



「そんなに無理しなくて大丈夫だから」


「おう、じっくり考えろ」



 今度はジャスティンが持っている蛙チョコレートに手を出したエドガーの言葉に頷いて、リンはスイの体をゆっくりと撫で、自分のかぼちゃパイへと手を伸ばした。


 それを咀嚼〔そしゃく〕しながら、思う。


 スイもハンナたちも、みんなクィディッチが好きだ。リンも、わりと興味があるし、飛ぶこと自体が好きだ。

 チェイサーやビーター、キーパーなんかはプレイが面倒そうだが、シーカーならいいかもしれない。ただボールに気をつけてスニッチを探しながら自由に飛べば、大抵はそれでいい。

 せっかく誘われたのだし、真剣に考えてみるのも、きっと悪くない。いまのところ、あくまで応募者としてカウントされるだけだし。


 かぼちゃパイを飲み込んで、リンは、セドリックとエドガーの顔を見上げた。



「……もしシーカーをやるとしたら、どんな箒がいいと思います?」



 セドリックとエドガーは、揃って目を丸くしたあと、楽しそうに嬉しそうに、箒について語り始めた。なぜかそこに、アーニーとベティも加わる。


 そんな彼らを見上げて微笑みつつ、スイは欠伸をしたのだった。





第 2 章 完

次ページにあとがき。
いらない方は飛ばして 第 3 章 へ。



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