新たな犠牲者(1)



 スイたちが石にされてから、四ヵ月が過ぎようとしていた。


 マンドレイクが何本か、第三号温室で乱痴気パーティーを繰り広げたので、スプラウトは大満足だった。つまり彼女によれば、マンドレイクが完全に成熟するのは目前だということだ。



 だが、その報告に喜んでいる暇はなかった。イースターの休暇中に、二年生に新しい課題が与えられたのだ。三年生で選択する科目を決めなければならない時期だ。

 なんて面倒なと辟易するリンやベティとは対照的に、アーニーとスーザンは、とても深刻に受け止めていた。



「だって、これで将来の道が半分確定するようなものなのよ?」


「職種の中には、特定の科目のO・W・LとかN・E・W・Tの合格点を取らないと就けないものもあるからね」



 新しい科目のリストに目を通しながら、スーザンとアーニーが、リンとベティに言い聞かせた。ベティは、うるさい蝿でも追い払うかのような仕草をして、スーザンの雷を食らった。

 いちいち反応しないで聞き流せばいいのに……と、ベティを眺めるリンのローブの裾を、ハンナが控えめに引っ張った。



「ねえ、リン、『数占い』と『古代ルーン文字』だったら、どっちが易しいと思う?」


「………ハンナには『ルーン文字』の方がいいんじゃない?」



 彼女が数学系をあまり得意としていないことを考慮してリンが言うと、ハンナは「私もそう思ってたの」と表情を明るくして、用紙にチェックマークをつけた。自分で分かってたなら聞かなくてもよかったのでは……という思いは、リンの胸の奥に仕舞い込まれた。

 ハンナはしばらくリストを見つめたあと、今度はスーザンたちを振り返った。



「スーザンたちは『マグル学』を取ったりする?」


「え? ああ、いいえ……私は『古代ルーン文字学』と『数占い』にしようと思ってて」


「僕は取るよ。やっぱりいまの時代、魔法社会以外のことを理解しておくことも大切だからね」


「他の科目に自信がないだけじゃないの?」



 ベティが意地悪く言うと、アーニーは「そんなわけないだろ!」と頬を染めて怒鳴った。



「他にも取るさ。『数占い』と『魔法生物飼育学』をね」



 ベティが呻き、信じられないという顔でアーニーを見た。生き物が苦手な彼女は、絶対に「魔法生物飼育学」は取らないだろう……そう思っていたリンは、驚くといった反応は特に見せず、普通に口を開いた。



「そう言うベティは、何を選択するんだ?」


「『古代ルーン文字学』と『占い学』よ。『マグル学』と迷ったんだけど、アタシ、半分くらいは“あっち”で暮らしてきたから、そんなに必要ないかなって」


「ハーフって、そういうところが素敵よね」



 ハンナが会話に入ってきた。キラキラ目が輝いている。



「魔法界とマグル界の両方に触れて育つなんて、ロマンチックじゃない?」


「どこにロマンがあるのよ。疲れるだけよ。結局、マグルの前では魔法を隠さなきゃいけないんだから。で? ハンナは結局『ルーン文字』と『マグル学』にしたの?」



 ハンナが持っている用紙を覗き込むベティに、ハンナが慌てて用紙を遠ざけ、頷く。さりげなく話題を逸らしたな……と、目を眇〔すが〕めつつ、リンは、まだ何も書かれていない自分の用紙を眺め、それを鞄に突っ込んだ。


 それから数日後、いろいろと迷った末に、リンは、スプラウトとマクゴナガルから「良ければやってみないか」と提案されるまま、すべての科目を登録したのだった。



→ (2)


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