悲惨なバレンタインデー(4)



「リン・ヨシノに、直々にお渡ししたい歌のメッセージがあります」


「……ああ、手短に頼むよ」



 嫌なことは早く済ませてしまおう精神で、リンは小人を促した。せめて大広間にいる生徒が、シンと静まり返って興味津々で見物するのをやめてくれたらいいのに。リンは頭の片隅で願った。


 小人は満足げに笑って、スーッと深く息を吸い込んだ。



♪ あなたは他とは違う、特別な人
  賢く優しく勇敢で、強く気高く美しい
  あなたは素敵、魅力的
  ああどうか、だれのものにもならないで
  私たちみんなのものでいて
  他の人の心をいくつ奪ってもいいけれど、
  あなたの心は、だれか一人に奪わせないで



 この場で、水蒸気に変わる水のように消えることができたなら、ロックハートの本を一冊くらい買ってやってもいい ――― なんとかみんなと一緒に笑ってみせながら、リンは思った。


 さすがにハンナたちは笑っていなかったが(ベティは無表情だった)、他の生徒の中には、笑いすぎて涙が出ている者もいる。

 そんな見物人を、なぜかグリフィンドールの監督生、パーシー・ウィーズリーが窘〔たしな〕め、散らしてくれた。



「さあ、もう見るものはない。今は食事の時間だ ――― 食べ終わってるなら、早く寮へ戻れ」


「ご協力どうもありがとう、ウィーズリー」



 彼の背後を通り過ぎるときに、リンは礼を言った。不機嫌だからか、意図せず冷えた声音が出たが、リンは気にしない。とにかく早く席に着いて食事を済ませ、帰りたかった。


 無言でクロワッサンを引き千切るリンの向かいに座ったスーザンが、ジトッとアーニーを見た。



「もう、アーニーったら、肝心なところで頼りないんだから」


「アーニー、何かしてたの?」


「リンが逃げようとしたとき、援護しようとして、リンと小人の間に入ったんだけど、向こう脛を蹴っ飛ばされて、歌が終わるまで悶えてたのよ」



 なかなか失礼なリンの質問に、ベティがニヤニヤと答えた。アーニーの顔が赤くなったのが、リンにも見えた。



「言っておくけど、あれは本当に、相当痛かった。君たちだって、きっと耐えられなかったさ!」


「あなたと私たちを一緒に考えないでちょうだい」


「そこで耐えるのが男ってもんでしょ」



 ハンナがオロオロする前で、スーザンとベティが揃って溜め息をついた。手厳しいなと感想を抱きながら、リンはスープを味わう。

 アーニーには悪いが、擁護はしない。こちらだって疲れているのだ。


 縋るような目で見つめてくるアーニーから目を逸らしたリンは、ふと、ハリー・ポッターと目が合った。同情というか、なんだか共感しているような視線を、リンに向けている。

 首を傾げたあと、リンは深く気に留めないことにして、再びスープに向き合った。




****
 カードの贈り主は、リンのファンの誰かです。
 特に決めていませんので、ご自由にご想像ください。



[*back] | [go#]