そういえば今日、ハグリッドが帰ってくるんだよね。夕食前にスイがのんびり呟いたため、リンたちは、ハンナたちが寝静まったあと、城を抜け出した。ハグリッドの小屋の戸口に瞬間移動し、扉をノックしようとしたとき、スイが「足跡」と言った。 「足跡? ……あぁ」 四人ぶんの足跡がしっかり残っていた。ハリーたちが一足早く来たらしい。ハーマイオニーにしては抜けてるなぁ。なんて思いつつ、リンは、ハグリッド以外の三人の足跡を消した。それから気を取り直してノックする。 「こんばんは、ハグリッド」 「ああ、リンか」 安堵した声が扉越しに聞こえた。のしのしと歩いてくる音。続いてドアが開けられ、スイが「へ?」と間の抜けた声を上げた。そんなスイに疑問をもちつつ、リンは小屋の中へと入った。 「やあ、リン」 ハリーが挨拶をして、自分のマグカップをよけ、スペースを作ってくれた。リンが礼を言ってそこに座り、ハグリッドから紅茶を受け取る。一口飲んで、盗聴防止の結界を張りながら、ハーマイオニーへ視線を向ける。 「話はどこまで進んだの?」 「ほとんど終わったわ。ハグリッドが巨人たちと接触したけど、結果は芳しくなかったって話。いまの巨人のボスが『あの人』側についてるから」 「それは……災難だったね。その割には怪我してないけど、治療済み?」 「おう。ハルがキレーに治してくれたわい」 なるほど……と納得して、スイは紅茶に口をつけた。原作ではひどい怪我って描写だったのに無傷だったからビックリした。スッキリしたスイとは反対に、ハーマイオニーは眉を寄せた。 「怪我ってどういうこと? 今までの話をきく限り、怪我をするような場面はなかったと思うけど」 「そうなの? 死喰い人と戦闘しなかったの?」 「してないって聞いたわ。そうでしょう、ハグリッド?」 首をかしげたリンに答えつつ、ハーマイオニーが確認を入れる。ハグリッドは「ああ」と肯定した。 「やっこさんらに存在を知られちゃいるが、連中とは関わってねえ」 「そう……その割には帰りが遅かったわね」 「シリウスは、マダム・マクシームはとっくに帰ってきたって言ってたのに」 「だれに襲われたんだい?」 ハーマイオニー、ハリー、ロンが連携して問い詰めると、ハグリッドは「襲われたりしてねえ!」と語気を荒げた。 「俺ぁ、」 ドンドン。不意にドアが叩かれた。ハーマイオニーが息を呑み、手にしたマグカップが指の間を滑る。それを超能力で浮かせて、リンは、ほかのマグカップと一緒に消失させた。 「あの女だ!」 「この中に入って!」 ロンとハリーがささやき声で騒ぐ。透明マントなんて使わなくても超能力でなんとかするのに……まぁ自分がいるばかりではないから、反射として望ましい行動ではあるか。などと思いながら、リンもスイを回収して、三人が隠れた部屋の隅へと行き、結界を張った。 四人が隠れたのを確認して、ハグリッドがドアを開ける。戸口には予想通りアンブリッジがいた。身長差が半端でなく、アンブリッジはのけぞってハグリッドを見上げた。 「……それでは、あなたがハグリッドなの?」 ゆっくりと大きな声で言いながら、アンブリッジはずかずかと部屋に入り、そこら中を見渡した。マナーがなっていない。リンはげんなりした。 どこにいたのかという問いに対して、ハグリッドはフランスだと言い張ったが、アンブリッジは山だと知っているようだった。こういうときだけ魔法省の情報網はすごいなと、スイは思った。 一方のリンは呑気に「ハグリッドは赤くなるけど日焼けはしないタイプなのか……」なんて呟いている。結界あるからって自由に発言するなよ、しかもそんなどうでもいい内容、というか嘘だろその情報。いろいろ内心でまくし立てつつ、それらを尻尾にこめて、スイは尻尾でリンの背中をビシッと叩いた。 「……まあ、いいでしょう。あなたが遅れて戻ってきたと大臣にご報告いたします」 部屋のなかを目だけで探りながら、アンブリッジが言った。ハグリッドが「ああ」と相づちを打つ。アンブリッジは「それと」と視線をハグリッドに戻した。 「高等尋問官として、私は現在ホグワーツの先生方を査察するという義務を有していることを認識していただきます。つまり、まもなくまたあなたにお目にかかることになります」 「おまえさんが俺たちを査察?」 戸口に向かって闊歩するアンブリッジの背中を見つめて、ハグリッドが呆然とした。アンブリッジは「ええ、そうですよ」と振り返った。 「魔法省はね、ハグリッド、教師として不適切な者を取り除く覚悟です」 それでは、おやすみ。冷たく言い残して、アンブリッジは小屋を出ていった。一拍おいて、ハグリッドがドスンドスンと小屋を横切り、カーテンをわずかに開け、アンブリッジが帰っていくのを確認した。それから、ハリーたちが透明マントを脱いだ。 「査察だと? アイツが?」 「そうなんだ……もうトレローニーが停職になった」 「ハグリッド、あの、授業でどんなものを教えるつもり?」 ハリーの言葉にかぶせるように、ハーマイオニーが聞いた。リンが「諦めたほうがいいと思うけど」と助言したが、キレイに無視された。しかし無視されたのはハーマイオニーも同様で、彼女の懇願もハグリッドに届かないようだった。 「ええか、俺のことは心配すんな。俺が帰ってきたからには、おまえさんらの授業用に計画しとった、ほんにすんばらしいやつを持ってきてやる。まかしとけ」 「だから諦めたほうがいいって言ったじゃない。ハグリッドは頑固だもの」 肩をすくめたリンに向かって、ハーマイオニーの平手が飛んだが、やはり虚しくかわされた。 5-25. ハグリッドの帰宅 |