「あー、スッゲー迷う。マジ悩むんだけど、これどうすりゃいいんだ?」

 がしがしと頭を掻いて天を仰いだあと、エドガーが「あ゛ー……」とうなだれて頭を抱えた。ほかのクィディッチ・メンバーが、それぞれ困った顔で見守る。ロバートだけはポカーンとしていたが。

「なにに悩んでんだ?」

「……だれを合格にするかに決まってんだろうが!」

 エドガーの拳がロバートの頬に決まった。ロバートが地面へと吹っ飛ぶ。赤いものが舞ったのを見て、リンは思った。口のなかが切れたとか鼻血で済めばいいが、歯が折れたとかだったら悲惨だなぁ、と。

「おーい、エド、ロブをかまうのもほどほどにして、早く決めようぜ。ちなみに俺としては、ザカリアス・スミスでいいんじゃね? ってとこなんだが」

 ローレンスが言った。エドガーが手と足を止めて振り返る。なんだか複雑そうな表情を浮かべている。

「……技術的には、俺もアイツでいいと思ってんだよ。ただアイツはちょっと、性格に難アリだろ」

「……はは」

「でも、素直でいい子だと思うよ」

 ローレンスは曖昧な笑みでもって返した。その横のセドリックがフォローを入れたが、エドガーから「正しくは『自分に素直』だろ」と指摘され、苦笑をにじませた。同級生二人の反応を見て、エドガーがため息をつく。

「あのトゲトゲした物言いが少しでも丸くなってくれりゃマシなんだがなぁ……」

「聞き流すか、言葉に気をつけろと注意すればよろしいのでは?」

「あのな、みんなおまえほどスルースキル高くねぇし、アイツが言って聞くヤツなら悩んでねぇの」

 首をかしげたリンの額を、エドガーが軽く小突いた。「俺と扱いがちがう!」とロバートが吼えたが、すぐさまエドガーから「テメェは男だろが!」と蹴られて地に沈んだ。オロオロするデイヴィッドの肩を、ローレンスが「気にすんな」とたたく。

「……そんな感じで、トゲが過ぎる場合は黙らせればよいのでは?」

 軽く手を上げて、リンが意見を述べた。「まぁそれが無難だな」とローレンスがうなずき、「できれば最終手段でお願いするよ」とセドリックが眉を下げる。エドガーが半眼になった。

「おまえらなぁ、俺が『すぐ暴力ふるうパワハラキャプテン』とか噂されたらどうしてくれんだよ」

「ところ構わず人目もはばからずロバートに手酷く激しいスキンシップをとっておいて、今さら何をおっしゃってるのか、ちょっとよく分からないです」

「おー、俺もな、誤解を招く物言いで先輩を傷つけるような発言をするおまえがどういう神経してるのか、ちょっとよく分からねぇわ」

「傷つけてしまいましたか? たいへん失礼いたしました、ロバート」

「俺にも謝罪しろっつの」

 エドガーがリンの両頬を引っ張った。リンが「何するんですか」と抗議したが、まともな音にはならない。ローレンスが笑った。セドリックとデイヴィッドはそわそわとエドガーを見やる。視線に気づいたエドガーがリンを解放し、リンは頬を軽くさすった。

「……俺がザカリアスをシメるのはいいとして、俺が卒業したあとはどうすんだよ。リンは問題ないけど、デイヴとの相性はよくないだろ」

「シメ方をリンに伝授しといて、リンにシメさせればいんじゃね?」

「ロブって他人事の場合は容赦ないこと言うよな」

 けろりと意見したロバートに、ローレンスがツッコミを入れた。しかし、エドガーにとってロバートの案はアリなのか、「ロブにしてはいい案出すじゃねぇか」と返す。ロバートは「だろ?」と顔を明るくした。

「リンもいい感じに物騒だし強いし! ぜってーエドに負けねぇって!」

「……悪口じゃないよね?」

 ぽつりとセドリックが呟いた。ロバートは慌てて「もち! いい感じにっつったろ? 褒め言葉だって!」と手をブンブン振る。

「いや、どんな褒め言葉だよ」

「でもうれしかったです、強いと評価していただけて。性別を理由にナメてくる男は蹴り飛ばせと、母から言われて育ちましたし」

「リンの母親マジ会ってみてーわ」

 エドガーが真顔で言った。「簡単に言うとどんなひと? 最近やった武勇伝的なもん言ってみろ」「最近……、あ。ダンブルドア先生を蹴り飛ばしてました」「マジで?!!」「お母さんだよな? お父さんとかおじいちゃんじゃないよな?」「母です」「ハンパねぇ」「猛者だ」「どうすんだセド、思わぬ難関だぞ」「何の難関ですか?」「リンはまだ知らなくていい、男の問題だ」……という会話を聞いて、デイヴィッドは静かに眉を下げた。

「……あ、の。結局、チェイサー、は、どなたが……?」

「やっべ忘れてたわ」

 意味深にセドリックの肩を抱いていたエドガーが、唐突にセドリックから離れる。セドリックはなんとか体勢を整えた。その様を見守っていたリンの目が、セドリックの目とかち合う。セドリックはなぜか頬を染めて視線を逸らした。リンが口を開いたとき、エドガーが「おし!」と発した。

「決めた! 実力重視で、発言については指導を入れる方向性で、ザカリアス! ってことで結果発表してくるわ」

「おー、行ってこい」

 ローレンスがひらりと手を振った。ようやく完全復活を果たしたロバートも「いってらー」と呑気に見送る。なんだかんだ言ってタフなひとだと、リンは思った。


5-17. 新しいチェイサー
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