| 「もうすぐ発表だぞ!」
ハロウィーン・パーティーのため大広間に向かう途中、アーニーが待ちきれない調子で言った。
あのあとリンは、天馬との交流を切り上げ、馬車を訪れてマダム・マクシームに再び礼を言って、ハグリッドにも礼を言って、遊びに来たらしいハリーたちにも挨拶をして、彼らと少し話をしたあと、城に帰った。
それから、まだ玄関ホールに入り浸るハンナたちを放置して、今度こそ同伴したジャスティンを適当にあしらいながら本を読んだり、気を紛らわしたい様子のエドガーに突撃を食らい(セドリックも巻き込まれていた)チェスをしたりゴブストーン・ゲームをしたりするうちに、あっという間に時間が過ぎた。
リンは、ハンナたちと合流して夕食を取り、ダンブルドアがアナウンスするのを待った。スイもリンの肩に乗って、ダンブルドアの席の正面に移されている「炎のゴブレット」を見つめていた。
やがて皿が空になり、ダンブルドアが立ち上がった。大広間の面々が一瞬にして静まり返った。緊張と期待感が満ちる。
「さて、ゴブレットはほぼ決定したようじゃ。わしの見込みでは、あと一分ほどかの」
何人かが一斉に自分の腕時計を見て、時刻を確認した。アーニーもそのうちの一人だった。ダンブルドアは二秒ほど間を置いてから続ける。
「さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは大広間の一番前に来るがよい。そして教職員テーブルに沿って進み、隣の部屋に入りなさい。そこで最初の指示が与えられよう」
言い終えて、ダンブルドアは杖を取って一振りした。途端、くり抜きカボチャを残して、あとの蝋燭がすべて消えた。部屋がほとんど真っ暗になる。「炎のゴブレット」の青白い炎が、明々と輝く。
「あと十秒……」
アーニーが、自分の時計を見ながら呟いた。ご丁寧にカウントしてくれるらしい。彼の口から出る数がだんだん小さくなっていき、そして、「一」という単語の一瞬後。
ゴブレットの炎が赤くなった。火花が飛び散り、メラメラと燃え上がる。その炎の舌先から、焦げた羊皮紙が一枚、はらりと落ちてきた。
ダンブルドアが羊皮紙を捕らえた。再び青白くなった炎に近づけ、文字を読む。
「ダームストラングの代表選手は ――― ビクトール・クラム!」
「いいぞ!」
「よっしゃあ!」
アーニーとベティが叫んだ。ベティはガッツポーズまで決めている。ジャスティンが「彼を応援してどうするんだい」と呆れたが、大広間中で湧き起こった拍手と歓声に掻き消された。
クラムが立ち上がって歩いていき、隣の部屋の中へと消えた。その数秒後、ゴブレットの炎が再び赤くなる。二枚目の羊皮紙が飛び出す。
「ボーバトンの代表選手は ――― フラー・デラクール!」
「最悪!」
ベティが呻いた。喜んだり嘆いたり忙しいやつだと、リンは思った。その横を、例の美少女が通り過ぎて、クラムと同じように小部屋へと身を滑り込ませた。
三度目が来た。ゴブレットの赤い炎が、羊皮紙を宙に放る。ホグワーツ生が、みんな身を乗り出した。ハンナが「ハッフルパフ、ハッフルパフ」と祈るのを見て、リンとスイは呆れた。
「ホグワーツの代表選手は ――― セドリック・ディゴリー!」
ハッフルパフのテーブルから歓声が爆発した。みんな立ち上がって、叫び、足を踏み鳴らす。間一髪で防音用の結界を張ったリンは、溜め息をついた。
視線を向けると、セドリックが立ち上がったものの眉を下げてエドガーを見ていた。エドガーは数秒セドリックを見つめ返したあと、立ち上がって彼の背中を勢いよく叩き、大広間の前方へ押しやった。ニッコリと笑顔を浮かべている。
セドリックは安心した様子で歩き始めた。ハッフルパフ生みんなが彼に手を振る。すごい興奮だ。静かに見送っていると、目が合った。リンは瞬いたあと、小さく手を振っておいた。セドリックは嬉しそうにはにかんで、早足で小部屋の中に入っていった。
「結構、結構!」
ハッフルパフの拍手と歓声は、かなり長々と続いた。やっとのことで収まったあと、ダンブルドアが呼びかけた。
「これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった者たちも、みな打ち揃って、あらん限りの力を振り絞り、代表選手たちを応援してくれると信じ ――― 」
突然、「炎のゴブレット」が、再び赤く燃え上がった。ダンブルドアが振り返り、スイが身を硬くする。ゴブレットから火花が迸り、炎が伸び上がる。羊皮紙が舞い落ちてくる ――― 。
反射的に羊皮紙を捕らえたダンブルドアが、それをじっと見つめる。長い沈黙。大広間中の目が、ダンブルドアに集まっていた。
やがて、ダンブルドアが静かに読み上げた。
「ハリー・ポッター」
大広間に流れる時間が止まったように、リンは感じた。ただ「炎のゴブレット」だけが、ゆらゆらと明かりを放ち、時間の流れを示していた。
数秒後、ハリーが、ハーマイオニーに押されてよろよろと立ち上がり、前へ進み出て小部屋へと入っていった。先生方が険しい顔をしている。
「……嘘よ」
ベティが呟いた。まだ呆然としていたが、話すだけの余裕は取り戻したらしい。
「だって、彼、十七歳未満よ? こんなの、」
「フェアじゃない」
珍しく、ジャスティンがベティのあとを引き継いだ。じっとハリーが入っていったドアを見つめている。
「ふざけてる。彼が代表選手? それならリンだって、」
「ジャス、そこから先は言わないでくれ」
間髪入れずリンが遮った。ジャスティンは大人しく口を閉じたが、ドアを見つめる目は敵意に満ちていた。
「ポッターが呼ばれたってことは、じゃあ、セドリックはどうなるんだ?」
どこからかザカリアスの声が聞こえてきた。ハッフルパフ生がざわめき出す。
「生徒たちは速やかに寮へ戻るのじゃ。ボーバトンとダームストラングの生徒も、こちらの教員が引率いたす。諸君、就寝!」
ダンブルドアが叫んだ。マダム・マクシームとカルカロフも、それぞれの国の言語で生徒に指示を出す。
不穏な雰囲気の中、リンは、膝の上に降りてきたスイを抱きしめた。
4-31. 炎のゴブレット
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