「リン! 無事かい?」

 テントに戻ると、チャーリーが駆け寄ってきた。先に戻ってきた三人と一緒にいないので、心配していたらしい。

「……三人? 誰がいないんです?」

「ロン、ハリー、ハーマイオニーさ。フレッドたちは無事に帰ってきてる」

「ロンたちについて、何か知ってるか?」

 話しながらテントに入ったとき、ビルが尋ねてきた。腕からの出血をシーツで抑えようとしている最中だった。首を横に振って、リンは彼に近づいた。スイが肩から飛び降り、ジニーの元へと駆け寄る。

 怪我をしているのは、ビルとパーシーだけのようだ。チャーリーはシャツが大きく裂けているだけ。双子とジニーは少し汚れている程度だ。ただ、ショックで放心状態だった。

「バラバラになるなと言ったのに……」

「ごめんなさい」

 唇を噛みしめるビルに、リンが小さく謝罪した。チャーリーが「あの人混みじゃ仕方ないさ」とフォローして、パーシーの鼻血を治す。リンは、ビルの患部に手をかざして癒し始めた。

「ロンたちも父さんも、大丈夫かな……」

「父さんはともかく、ロンたちは確かに気がかりだ」

 不安そうに、チャーリーはテントの入口へと歩いていき、顔を突き出した。顔についた血をタオルで拭いながら、パーシーが相槌を打つ。

「何かろくでもないことに頭を突っ込んでないといいんだけど。しかし、あの三人はいつも ――― 」

「パース、いまはそんな話をするときじゃない」

 長兄のビルが弟を諌めた。パーシーは大人しく口をつぐんで、タオルと服に付着している血を魔法できれいにすることに専念した。

「父さんが帰ってきたみたいだ」

 リンがビルの傷の治り具合を確認していたとき、チャーリーが囁いた。全員が反応を示す。リンも、再び治癒能力を発動させつつ、視線を入口に向けた。

 ウィーズリー氏がテントに潜り込んできた。そのあとから、ハリー、ロン、ハーマイオニーが続いてくる。これでようやく全員の安否が確認できた。

「捕まえたのかい、父さん?」

 ほっとさせる間も与えず、ビルが鋭い語調で聞いた。

「あの印を創ったやつを?」

「いや。バーティ・クラウチのしもべ妖精がハリーの杖を持っているのを見つけたが、あの印を実際に創り出したのが誰かは、皆目わからない」

 ビル、チャーリー、パーシーが、同時にそれぞれ吃驚の声を上げた。

「ハリーの杖?」

「クラウチさんのしもべ?」

 フレッドが愕然としたあと、パーシーが雷に撃たれたような声を出した。気にするポイントが見事に分かれたものだ。リンが感嘆するのをよそに、ウィーズリー氏が詳しい説明を始めた。

 ざっと要約すると、こうだ。

 まず、ハリーがどこかで杖をなくした。その杖を使って、誰かが『闇の印』を創り出し、その誰かは杖を捨てて姿を消した。その後、偶然その場に居合わせて取り残されたハリーたちに嫌疑がかけられた。

 しかし、今度は、杖を持ったウィンキーが発見された。彼女にも疑いがかけられたが、結局、彼女は「偶然」杖を見つけて拾っただけだと結論づけられた。そして、ウィンキーは、「魔法生物規制管理部」での尋問は回避できたが、クラウチ氏から解雇されることになった。

 正直、よく分からない話の流れだ。リンは思った。

 特に、クラウチ氏の態度が引っかかる。少し支離滅裂なような気がするのだ。……まぁ、直接に見聞きしたわけではないので、何も言えないのだが。

 リンは思考を切って、話し合いの方に意識を向けた。パーシーとハーマイオニーの口論から、「闇の印」が何たるかについての説明を経て、「死喰い人」が「印」を見て逃げた理由へと、話題が変わっていた。

「連中がほんとに『死喰い人』だったら、『闇の印』を見たとき、どうして『姿くらまし』しちゃったんだい? 『印』を見て喜ぶはずじゃないか。違う?」

「ロン、頭を使えよ」

 未だに治療中のビルが言った。

「連中が本当の『死喰い人』だったら、やつらは『例のあの人』が力を失ったとき、アズカバン行きを逃れるために、必死で工作したはずの連中なんだ。『あの人』に無理やりやらされて、殺したり苦しめたりしましたと、ありとあらゆる嘘をついたわけだ。 ――― リン、もうそろそろ大丈夫だと思う」

 話の途中で、ビルはリンを見た。視線を受けたリンは、いったん治癒を中断して、彼の腕の様子を看る。だいぶ治った感じだった。

「……そうですね。じゃあ、あとは自然な自己治癒でがんばってください」

「ああ。ありがとう」

 きれいに微笑んで礼を言い、ビルは話を再開した。

「僕が思うに、『あの人』が戻ってくるとなったら、連中は僕らよりずっと戦々恐々だろうね。『あの人』が凋落したとき『あの人』との関係を否定して、日常生活に戻ったんだからな……『あの人』が連中に対して、お褒めの言葉をくださるとは思えない。だろ?」

 やはり、頭が良いのは事実だったか……ビルを見上げて、スイは思った。いつもスイを虐めてくるので、その印象がすっかり薄れていたのだ。しかし、そういえば、ホグワーツでは主席で、O・W・Lで十二科目もパスするような人物だった。

 それなのに、あんなチャラチャラした格好で、事あるごとにスイにちょっかいをかけて……。

「……なら、あの『闇の印』を打ち上げた人は……」

 スイが悶々と思考していると、ハーマイオニーが口を開いた。彼女もなにやら考えている様子だ。

「その人は、『死喰い人』を支持するために『印』を出したのかしら。それとも、怖がらせるために?」

「それは、私たちにも分からない」

 ウィーズリー氏が言った。彼曰く、分かっていることは、ただ一つ ――― あの「印」の創り出し方を知っている者は「死喰い人」だけであること。たとえいまはそうでなくとも、一度は「死喰い人」であるに違いないそうだ。

「さあ、もうだいぶ遅い。なにはともあれ、みんな無事だったから良しとしよう。何が起こったか母さんが聞いたら、死ぬほど心配するだろう。あと数時間眠って、早朝に出発する『ポートキー』に乗ってここを離れよう」

 その指示に従って、みんな立ち上がった。スイはジニーに抱え上げられ、リンとハーマイオニーと一緒に、女子テントへと戻った。

 怖がるジニーが離してくれず、仕方なく彼女と一緒にベッドの中に入ったスイは、ふとリンを見た。リンはベッドには入らず、どこからか折り紙を取り出して、なにやら折っていた。

 なにやってるんだと思ったが、ハーマイオニーもジニーも注意しないため、どうすることもできず、ただ諦めて目を閉じたのだった。

4-19. 「印」の謎
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