| ほんの数時間しか眠っていないのに、みんな、ウィーズリー氏とリンに起こされた。ただ一人スイだけは、諦めたリンに持ち運ばれたが。
ウィーズリー氏は魔法で素早くテントを畳み、できるだけ急いでキャンプ場を離れた。緊急事態のため、マグル対策は考えないことにしたらしい。
それから、ウィーズリー氏が「ポートキー」の番人と手早く話をつけたおかげで、太陽が完全に昇りきる前には、みんなでストーツヘッド・ビルに戻ることができた。
「隠れ穴」に帰ると、ウィーズリー夫人が駆け寄ってきた。真っ青な顔で、手には「日刊予言者新聞」を握り締め、足元はスリッパのままだった。
「ああ! アーサー! 心配したわ!」
夫人はウィーズリー氏の首に腕を回して抱きついた。リンはそれを直視できなくて、夫人が落とした新聞に視線を向けた ――― 見出しには「クィディッチ・ワールドカップの恐怖」とあった。モノクロ写真の中で「闇の印」が輝いている。
「みんな無事でよかった……リンから連絡をもらってたけど、自分の目で確認するまでは、どうしても心配だったわ……」
「いつの間に連絡をしたの? どうやって?」
「寝る前に、折り鶴で」
「……は?」
すすり泣く夫人の声をBGMに、ハーマイオニーとリンが会話を交わした。その横で、フレッドとジョージが母親に抱きしめられている。あまりの勢いに、双子が母親の腕の中で鉢合わせをしていた。
「『例のあの人』がおまえたちをどうにかしてしまっていたら……母さんがおまえたちに言った最後の言葉が『O・W・L試験の点が低かった』だったなんて、いったいどうしたらいいかと……ずっとそればかり考えていたわ! ああ、フレッド、ジョージ……」
感動的な親子愛だ。どこか冷めた目で見ている自分に気がついて、リンは激しい自己嫌悪に苛まれた。右手を左の肘に回し、パーカーの生地をきつく握り締める。
「さあさあ、母さん、落ち着いて。家に入ろう。みんな無事なんだから……」
ウィーズリー氏が妻に優しく声をかけた。双子に食い込む夫人の指を引き離し、彼女の肩を抱いて、家の中へと連れ帰る。途中、小声でビルに新聞を拾ってくるように頼んだ。
「……リン? 顔色がよくないけど、大丈夫か?」
不意に声をかけられて、リンの肩が跳ねた。ぼんやり夫妻と子供たちの方へ向けていた視線を巡らせると、ビルと目が合う。彼の手には新聞が握られていた。
「………少し、寝不足で。それに肌寒いし」
「……そうか」
とても上手に微笑むリンを見下ろして、ビルはかすかに眉を寄せたが、特に何も触れてこなかった。家の中に入ろうと、リンの背中に手を置き、誘導する。リンは促されるまま足を進めた。
**
「傷が痛んだ?」
キッチンでのドタバタから離れ、ロンの部屋に召集されたリンは、ハリーの打ち明け話に小さく首を傾げた。横では、ハーマイオニーがつらつらと意見を述べている。ロンはびっくり仰天していて、言葉も出ない様子だ。ちなみに、スイはまだ寝ている。
ハーマイオニーの発言を遮り、ロンを放置し、スイをベッドに寝かせ、リンが口を開く。
「どんな夢だったの? ヴォルデモートは何をしてた?」
「その名前は言わないで!」
ロンが素早く、呻くように言った。さっきまで呆然としていたくせに、こういうときだけ……。リンは少し呆れた。向かいでハリーが話し出す。
「あいつは何かを企んでた……どこかの屋敷で、知らない男と話してた。あいつの部下……『死喰い人』だと思う」
「たかが夢だろ? ただの悪い夢さ。そうに決まってるよ」
ロンが励ますように言った。というより自分がそう思いたい様子だった。ハリーは窓の方を向いた。
「ほんとにそうなのかな……なんだか変だと思わないか? 僕の傷が痛んだ。その三日後に『死喰い人』の行進。そして、ヴォルデモートの印」
「あいつの名前を言うなってば!」
「それに、トレローニー先生が言ったこと、教えただろ? 覚えてるかい?」
ロンの嘆願は無視された。というより、ハリーは彼の声が聞こえていないようだった。ハーマイオニーがトレローニーという単語にフンと鼻を鳴らす。彼女が話し出す前に、リンが口を開いた。
「夢に出てきた男が、彼の元に馳せ参じた召使いってことかな」
「そうだと思う。先生が言ってた……召使いの手を借りて『闇の帝王』が立ち上がるって……以前よりさらに偉大に、より恐ろしく……」
沈黙が流れる。スイがロンのベッドの上で寝返りを打った。リンが口元に手をかざし、小さく欠伸をする。
「……考えてても仕方ないよ。答えは出ない。私は失礼して、一眠りさせていただくよ」
立ち上がったリンは、スイを拾い上げて、ロンの部屋をあとにした。ドアが閉まる直前、ハーマイオニーが「まったく、リンったら相変わらずね」と呟くのが聞こえた。
4-20. 夢、傷痕、「印」、予言
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