| 「クラムがスニッチを捕りました ――― しかし勝者はアイルランドです!!!」
バグマンが叫んだ。試合の結果に度肝を抜かれている様子だ。
「なんたること! 誰がこれを予想したでしょう!」
騒がしい。やや眉を寄せながら、リンは「万眼鏡」を顔から離して、椅子の背に身体を預けた。スイもリンの膝の上でぐだーっと伸びる。その隣でジニーがチャーリーを振り返った。
「クラムはどうしてあのタイミングでスニッチを捕ったの? あと二〇点ブルガリアが稼いでから捕ればよかったのに」
「うーん……点差が縮まらないって、薄々分かってたんじゃないかな」
「アイルランドのチェイサーがすごく上手かったしね」
「単にブルガリアの選手が阿呆だったからじゃないですか? 頻繁にアイルランドにペナルティーを与えて、しかもゴールは守れない……正直、点差が十点で済んだことに喜ぶべきですよ」
「………辛辣だな、リンは」
肩を竦めたリンに、チャーリーが頬を引き攣らせた。ジニーはポカンとし、ビルは「けっこう言うね」とクスクス笑っている。スイとしては、歓声と拍手喝采という大騒音の中、いつも通りの声量で難なく聞き取らせたリンに驚いていた。
そうこうしている間に、ワールドカップ優勝杯が貴賓席へと運ばれてきた。そういえば魔法省大臣がここにいたなと、リンは思い当たった。
しかし照明が眩しい。早く消えないかなと思いながら、リンはブルガリア選手がボックス席へと入ってくるのを眺めた。
最上階ということは、スタジアムから出るのにも一苦労することを意味する。人が殺到する階段を見下ろして、リンはちょうど椅子の前にある手すりに頬杖をついた。
ウィーズリー氏の指示で、階段から人が少なくなるまで貴賓席に待機することになったのだ。「姿現わし」を使うという案も、双子やロンから出たが、普通に却下された。
目的地はスタジアムに一番近いところであるため、人混みができていると予想される。となると、失敗したり、巻き込んだり巻き込まれたりと、いろいろと危険がある、というのである。
「こんなところにずっといたって、退屈じゃないか」
「だけど、どうせテントに帰ったところで眠る気ないんでしょう?」
クローバー帽子を指先にぶら下げたロンが、ブツブツとぼやく。それを受けてリンがスイを撫でながら笑うと、ロンは真っ赤になった。ニヤニヤ笑った双子が弟をからかい始め、パーシーが「うるさいぞ!」と叱る。
リンは、彼らから視線を外し、空を見上げた。鮮やかな花火が打ち上げられていた。膝の上では、スイが「万眼鏡」の再生機能で遊んでいる。
不意に、そこに腕が伸びてきた。またもやビルがスイを構い出すらしい。スイの悲鳴と威嚇を聞きながら、リンは仄かに笑った。
「そういえば、リン、ハルには気づいたかい?」
「……伯父上ですか? まぁ、一応、見てましたけど」
ウィーズリー氏からの話題に、リンは首を傾げた。隣でチャーリーと話に花を咲かせていたジニーが、勢いよく振り返る。
「リンのおじさんがいたの? どこに?」
「どこって、競技場に」
「リンチが地面に激突したときに、彼を蘇生させた魔法医だよ」
「ああ、あのクールそうな黒髪の人か。ほら、ジニー、黒縁の四角いスマートな眼鏡をかけてた人だよ。この熱い中、白衣のボタンも外さず、袖を捲り上げもしてなかった。色白で、髭もなかったな」
ざっくりとしか答えないリンに代わって、ウィーズリー氏が説明をした。ビルがスイから手を離さないまま、さらなる説明を加える。細部まで覚えている兄に、チャーリーが怪訝そうに気味悪そうに視線を向けた。
「そんな目で見るなよ、チャーリー。とてもハンサムな人だったから見てただけさ」
「……ヴィーラには目もくれてなかったのに?」
「スフィンクスも、見た目は美しいけど正体はえげつないからね」
ニッコリ笑ったビルに、チャーリーは口を閉じた。ただし「スフィンクスって美しいのか……?」という呟き声が、かすかに聞こえてきたが、スイの悲鳴に掻き消される。
「リンのおじさん、ヒーラー(癒者)なの?」
「うん。名癒だと思うよ。……昔、ひどい怪我をしたけど、きれいに傷痕なしに治してくれた」
ジニーの問いに、リンは少しだけ目を伏せて微笑む。その肩の上に何かがのしかかってきた。
「なあ、リンのおじさんってことは」
「そのハルって人は、ジンの親父さんか?」
「そうだよ。フレッド、重い」
リンは、双子の片割れを肩から払い落とした。そうして、双子を見てふと思い当たったことを口にする。
「そういえば、今年、君たちによく似た悪戯小僧たちが入学するよ」
「は? ホグワーツに?」
「うん。私の従弟たち。ハルさんの第二子と、アキさんの第一子。見た目はあまり似てないけど、やることは息ピッタリなんだ」
ふぅん……と、フレッドはニヤニヤと、ジョージは感慨深げに、揃って相槌を打つ。ジニーが「どの寮かな」と考え出すのを見て、リンは笑った。
「たぶんグリフィンドールだよ。レイブンクローにしては、弾けすぎだから」
「やめてくれ」
また問題児が増える……と、パーシーが頭を抱えた。もう卒業しているから関係がないことをリンが指摘すると、彼は「そういえばそうだった」と我に返った。すごい監督生気質だと、リンは思った。
「さて、そろそろ人も少なくなってきたころかな」
不意に、ウィーズリー氏が椅子から立ち上がった。階段を見下ろして、子供たちを振り返る。三人でなにやら話していたハリーたちも、視線をウィーズリー氏に向けた。
「テントに帰ろう」
指示に従って、みんな立ち上がる。リンは、ようやくビルの手からスイを回収した。ぐったりしたスイが、もの言いたげに、じろりと睨みあげてくる。
「……忘れてたんだよ。ごめん」
淡々と謝罪するリンに、スイは、フンッと鼻を鳴らした。
4-17. 試合後の団らん
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