爪楊枝《テニプリ:忍跡》
「あかーーん!!景ちゃんっ自分言っとんの!?有り得へんっ」
「あーん?誰が景ちゃんだ」
そういう会話になったのも数時間前のこと。
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部活も終わった放課後。忍足は跡部と一緒に帰っていた。その途中、忍足が思い出したように「あっ」と呟いたらニンマリと笑顔になって言った。
「美味いもん食わしたるから俺ん家来えへん?」
「あーん?美味いもん?最高級の牛肉を使ったステーキでも食わしてくれんのか?」
(……景ちゃんにとっての美味いもんはそれですか!!?)
脳内でツッコミを入れつつちゃんと応える忍足。
「景ちゃん、美味いもんは最高級の牛肉を使ったステーキだけじゃあれへんで……」
「じゃあ何だって言うんだよ」
「それは来てからのお楽しみやで」
「…?」
跡部は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、忍足の家へとついて行った。
忍足の家に着くと、跡部はいつ見ても小せぇ家だな、と文句をたれた。それに対し忍足は、お前の家を基準として比べんなや、と声に出して言わず、心の中だけでツッコミを入れた。そして跡部を自分の部屋に通した忍足は、ここで少し待っといてや。と、それだけ言うと、キッチンへ行ってしまった。
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数十分後
「お待たせ景ちゃ〜ん!!」
「あーん?……何だ?それ、たこ焼き……か?」
そう、忍足が持って来たのはホカホカと湯気をたてているたこ焼きだった。
「おぉ!景ちゃんたこ焼き知っとったん?」
「忍足。お前どこまで俺が庶民を知らないと思ってんだよ……」
怒り半分、呆れ半分というような顔で言った。
「どこまでって言われてもなぁ……実際殆ど知らへんやろ?」
「……ぐっ……」
跡部は図星とでも言うように、言葉に詰まる。
「ま、そんなことどうでもええわ。たこ焼き冷めてまうから早よ食べよ」
「あぁ。それにしてもどうしたんだよ、これ。お前が作ったのか?」
「そうやで。こん前従兄弟の謙也がたこ焼き機送ってきたんや。せやけど、俺が作るたこ焼きより本場のたこ焼きのがめっちゃ美味いんやで!……って、何で一口も手ぇつけてへんの……?」
「……何で……」
「は?」
「何でナイフとフォークが無いんだ?」
「……はぃぃ!!?け……景ちゃん?自分何言っとるんや?」
「あん?馬鹿かお前。食いもんはナイフとフォークで食べるのが常識だろうが!!」
(ええぇぇええぇぇ!!?いやっ景ちゃんの常識間違うてるで!)
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それで今に至る訳だが、跡部はナイフとフォークでたこ焼きを食べるなどと言っている。
「あかんで、景ちゃん。たこ焼きつーもんはなぁ、普通爪楊枝で食べるもんなんやで!これが庶民の常識なんやで!!」
「この俺様が庶民の常識を知るわけないだろ。いいから早くナイフとフォーク持って来い」
(どこまで俺様なんや……)
忍足はしぶしぶと、キッチンからナイフとフォークを持って来て、跡部に渡した。跡部は満足げにナイフとフォークを使ってたこ焼きを食べている。
(たこ焼きをナイフとフォークで食べる奴なんか初めて見たわ……)
忍足は脳内で文句を言っていたが、次の跡部の言葉でそれも全部吹き飛んでしまった。
「美味いな」
本当に不意打ちだった。跡部にとっては、単に感想を述べただけかもしれないが、普段人を誉めないひねくれ者の跡部の口から、素直に美味い、と言われたのが凄い嬉しいかったのだ。
「ホンマか!?」
思わず聞き返してしまう忍足。
「俺が美味いっつってんだから美味いんだよ!」
「せ……せやな」
それから、何気ない話しをして時間が過ぎていった。
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跡部が帰る頃になると、忍足は玄関まで跡部を見送りに出た。
「今日はたこ焼き美味かった。有り難な」
「ん?えぇよえぇよ。跡部が美味い言うてくれたんやし」
と言って跡部に笑いかける。そしたら跡部が思ってもみないことを言ってきた。
「次……いつ作るんだ?」
(次って……景ちゃん次作るの期待しとるんか!?って頬赤らめとるっ可愛すぎやで景ちゃん!)
だが、ここで忍足はふっとあることを思いついた。ニヤリと、跡部に不適な微笑みを見せると、忍足は口を開いた。
「景ちゃん、たこ焼きは爪楊枝で食うもんやから、爪楊枝使わへん景ちゃんには作ってやれへんねん」
「なっ……」
そう、忍足はこれで跡部に爪楊枝を使ってたこ焼きを食べさせることを考えたのだ。
「かんにんな?」
「……………」
跡部は何か考えるように俯き、俯いたと思ったらいきなり顔を上げ、さっきの忍足以上に不適に笑った。
「なら爪楊枝を使いこなしてやるっこの俺様に使えないものはないからな!」
と言い、踵を返した。忍足は思わず「は?」と言ってしまい、唖然としていたが、跡部はそれを気にする様子もなく、帰って行った。
それから数日の間、跡部が爪楊枝を使い、たこ焼きを食べる姿が数人のテニス部員に目撃されたとか……。
―end―
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