独占欲
「あっ…あれ、万事屋の旦那でさァ」
「!!?」
総悟を連れて町の巡回中に来ていた時、少し後ろを歩いていた総悟に言われた。どきっと動揺したが、それは所詮内心でだ。表に出すことはない。そして何食わぬ顔で後ろを振り返り総悟が見ている所を見てみる。が、
「………おい、何処にいんだよ。居ねーじゃねぇか…」
【独占欲】
総悟に向き直って言うと、そこにはニヤニヤと笑いながら俺を見るS王子がいた。
まさか―…
「テメッ…」
「土方さん。そんな旦那のことが気になるんですかィ?今仕事中なんですから少しは慎んで下せェ」
騙された。
ニヤニヤと恥ずかしいことをコイツは…。だが俺が万事屋に気があることがバレているのは事実。何で…よりによってコイツにバレたんだ?
「土方さんは分かりやすすぎなんでさァ。巡回の時は見回りするフリして何気に旦那探してて、それ、自覚あるんですかィ?もう真選組のみんなには広まっちまってまさァ」
「…広まってるって…嘘だよねそれ。冗談だよね?ちょ、待て待ていやいや、有り得ねーから。って俺お前位しか一緒に巡回行かねーんだけど!?つーことはアレか、お前が真選組内にバラしたのか!!?」
平静を装うとしても、さっき以上に半端なく動揺して混乱しているせいか、出来ない。総悟といえばそんな俺が面白いのか、俺の後ろを指差しさらに弄ってこようとする。
「あっ今度は本物の旦那でさァ」
ニヤリと笑う総悟だが俺は振り向かない。ンな嘘にもう引っ掛かるかっつーんだよ。
「もーいいっ早く巡回すませるぞっ」
怒りを含みながら投げやりに言い、総悟に向いていた体を前に向ける。
「!!?」
「いだっ!!」
前に向けた瞬間、頭が誰かの頭にぶつかった。それは丁度俺と同じ背丈の万年グータラ生活を送っている男。
何でコイツが―…。
「いだだだだ…。何すんだよ。俺に怨みでもあるんですかコノヤロー。…って……あのー、何でコイツがここに?とかいう目を向ける前に俺の頭に頭突きしたんだからね?わかってる?謝るとかしないわけ?」
いやいや、何でこのタイミングでお前がいんだよ!しかも俺の後ろに!ンなことより…今の会話聞かれてねーよな…?
すると総悟が含み笑いをして万事屋に近づいて行き、嫌な予感が頭を過る。
「旦那ァ、聞いて下せェ。土方さん、仕事放棄して巡回中はずっと旦那のこと探してるんですぜ」
オィィイィィ!!!総悟ォォ!何言っちゃってんのォォ!!?それ言っちゃいけないことだからぁァァ!ちょっ俺見てその勝ち誇った顔すんの止めろよ!!
「うーわー。多串くん仕事も手につかなくなる程銀さんのこと好きなの?もしかして俺すんごい愛されちゃってるー?」
っ…!何でコイツはそんな恥ずかしいことを平気で言えンだよ…。
だんだんと顔が、いや、もう全身から火が噴くんじゃないかって位熱くなってくる。
「どうなんですかィ?土方さん。旦那のこと愛しちゃって…!おっと…」
その減らず口をぶん殴ろうとしたが、あっさりと避けられてしまった。が、避けられるのは分かっていたこと。俺は殴る勢いのまま万事屋の手を掴むと駆け出した。総悟が俺の背中に向かって何か言ったがかまってられるか。引っ張られている万事屋は俺の行動に驚いている。
「おっオイッ…何処に、連れて行くつもりだよ!」
走りながら舌を噛まないように途切れ途切れに聞いてくる。
俺にも分かんねーよどこに行くかなんて。
ただお前を連れ出したかった。 不意討ちで現れるんじゃねーよ。抑えが利かなくなるだろうが…。
総悟の言うとおりだ。仕事と偽って俺はいつもいつもお前を探してる。見つけると目で追ってやがる。真選組内に知れ渡ってるならそれでいい。寧ろ自慢したいくらいだ。真選組全員の前でコイツが俺の恋人何だって言ってやりたい。
だがそれでコイツが狙われたらどうすんだよ。コイツに寄ってくる野郎がいるだけで腹が立つ。怒りが込み上げてくる。
お前は俺のとこに居ればいい。いや、居て欲しい。所詮それは俺の傲慢。
ただの欲望、独占欲の何者でもない。
体力がぎりぎりのところで俺はようやく走るのを止め、万事屋の手を離した。だがその手が離れて行くのを見たら、万事屋が俺から離れて行くような気がして思わず一度離れた手を掴んでしまった。掴んだだけじゃなく俺は万事屋を抱き締めていた。しかも町中で。
「えっえ!?ちょっ多串くん!!?」
万事屋は周りの目線が痛いのか、場所考えろよ!などと言ってはいるが俺を無理矢理引き剥がすことはしない。
…仕方ねーな。
一旦万事屋から離れると辺りをぐるりと見渡す。するとすぐ近くに丁度良さそうな宿があり、あそこ入るぞ、とそれだけ言い万事屋を引っ張った。
宿の一室に入り戸を閉めた途端俺は万事屋を戸に押し付け唇を重ねた。
「!?…んンっ…ぁ…」
目を見開いて驚いた万事屋だが、ゆっくりと目を閉じ俺が出した舌に自分の舌を絡めてきた。
部屋には卑猥な水音が響き渡り、俺と万事屋の気を煽る。やっと唇を離すと、唇からはお互いを繋ぐ銀色の糸がひいていた。それを拭い、俺は言葉をポツリと漏らした。
「万事屋…俺は、テメーが欲しい」
「……はい?」
思わぬ言葉に万事屋は間抜けな声を出して反応する。
「お前を俺のモンにしたいんだよ…」
「なっ…俺のモンにしたいって…もう俺お前に抱かれたし多串くんのモンになっちゃってんじゃん。」
っ…!…そうじゃねーんだよ!それはただ抱いただけじゃねーか。お前は俺に愛なんてあんのかよ!?俺はそれが確かめたいんだよ!俺はお前だけが傍にいてくれればそれで十分なんだ。お前が俺以外のとこに居るなんてことを考えるだけで頭がおかしくなりそうになる。
「!!?」
すると、いきなり万事屋が抱きついてきて俺の肩に頭を乗せた。
「んな顔しなくても銀さんはここにいるから」
「!!」
心を見透かされたように万事屋が囁く。
「俺だって野郎共だけの真選組に多串くんがいるなんて考えたらすんごい心配になるんですけど?」
それは遠回りにお前のことを気にしてるのは自分だけじゃないって言ってるようで、俺は少し安心した。
万事屋を抱き締め返せば、直に万事屋の温かさが伝わってくる。それと、いつもより大分速く、そして大きく鳴っている心臓の鼓動。万事屋を見ると顔は隠れて見えないが、耳まで真っ赤になっているから相当赤くなっているんだろう。
それを見て俺は体が疼き、熱くなるのを感じた。
部屋を出るにはまだ時間が余り過ぎている。
これは…ヤることヤっとかないとだろ…。
それから丸々一日、俺達は宿から出て来なかった。
そして屯所に帰った俺に悪夢が襲った…。
屯所の野郎共全員に…仕事中に俺が万事屋を連れ出したというのが広まっていて、それから数日の間俺を見かける度に俺は白い目で見られ、陰で鬼の副長ともあろう人が…などと言われ続けた。
それも全てアイツの仕業。そう、あの時一緒に巡回をしていた、総悟の仕業だっ。だが総悟にその事を言いに行くと、
「俺はちゃんと土方さんに忠告してあげたんでさァ」
とあっさり言われた。続きを聞いて見ると、俺は俺自身を恨んだ。
「俺は旦那連れて行くときに『仕事放棄したら後でどーなっても知りやせんぜィ』って叫んであげたんでィ」
それには俺も流石に後悔した。
くそっ…。あの時ちゃんとこいつの言葉に耳、傾けとけば…。
―end―
09/01/19
- 2 -
[*前] | [次#]
ページ: