「いちゃん!」
「…え、僕?」
「ほかに誰がいるの!」
「僕しか居ないけど。」
「でしょ?」
にっこりと笑って、彼女はソファーにぼすんと落ち込んだ。
柔らかいソファーだから、体の形によくフィットして好きだ、なんて、この間言っていたっけ。
「で、なんなのそれ。」
「いちゃんはいちゃんよ!」
「ワケがわからないね。」
「だからぁ、風紀委員長、委員長、委ちゃん!」
嬉しそうに言った彼女は、まだソファーに落ち着いている。
座るだけならまだしも、横になってしまっているのだからどうしようもない。
両手をひらひらと突き上げ、窓から差し込む午後の光が腕を白く照らした。
(まぶしい、)
「…くだらないね。」
「まだあるよ、」
「いいよ、もう。」
「風紀委員長、委員長、いんちょう、いんちょ、ちょいん!」
「ちょ、」
「えへ、かわい―。」
「咬み殺すよ?」
「うはっこわいね!」
悪びれずに笑って、まっすぐに伸ばしていた手をこちらに向けた。
「ごめんね恭ちゃん、私、恭ちゃんを委員長としてみれなくて。」
この間、委員会の女の子が恭ちゃんのこと委員長!って呼んでてね、なんだか新鮮だったの。
私も一回呼んでみたいなっておもったけど、でも、
(みんなが知る、委員会の恭ちゃんをね、私、知らないから!)
早口に言って、手を祈るように組んで、胸元に置いた。
(まるでなにか神聖なものを見ているかのようなまなざしで。)
「…ばかじゃないの?」
(変なやきもち。)
思わずすこし笑って、ソファーに横たわる人の祈りに手をそえた。
「恭ちゃん、」
「委員長の顔なんてみんな知ってるじゃない。」
「…うん、」
「雲雀恭弥を知ってるのは、君だけ。違う?」
「…違わない!」
(ようやくみせた本当の笑顔はすこしばかっぽくて、それって僕しか知らない君だと思った。)
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