「俺、京子と結婚することにした。」
にこりとわらって言った彼には、なんとなく幸せそうなオーラを醸し出していた。
「…あ、」
(そう、ですか。)
(結婚ですか。)
おめでとうございます。
そ、か。
おめでとう、ございます。
本当ならそう言いたかったけれど、声がでなかった。
わたし、なんでこんなに、おなかがいたいんだろう。
心が、いたいんだろう。
風がそよそよと髪をゆらした。
開いた窓から、4月の空気が吹き込む。
しばらく、わたしは紅茶のポットを手にしたまま、かたまった。
「ね。ちょっと。」
「…え?」
振り返ると、目の前にボスがいた。
とんでもなく、近い場所。
「今日ね、なんの日?」
「え…?」
「4月バカの日。」
にこりと笑って、彼は首をかしげた。
「う、そ!」
(…騙しましたね!)
(あはは!)
(…本当に、うそ?)
(うん、本当に、うそ。)
たちの悪いうそだ。京子と結婚だなんて、シャレにならないわよ。
だってわたし、彼のことが、
よかったと思ってしまったのは、きっとわたしの本音だ。
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