朽木姉 過去 | ナノ

自分を見据えて


(9/23)





「お戻りになったのですか、お爺様、姉上!」

仕事を終えて屋敷に戻ると自主練をしていたらしい白哉が私達に小走りで駆け寄ってくる。「ただいま白哉〜〜」と頬擦りすると「姉上、おかえりなさい」と嬉しそうに白哉は微笑んだ。

「それくらいにせんか」とお爺様に声を掛けられる。ゼロ距離だった白哉と少し離れるが、それでも肩はくっついているのを見てお爺様は「仲が良すぎるのも困ったものだ」と一言零された。




屋敷の室内に入る。ずっと隊舎で寝起きしていたせいか、久しぶりに感じる我が家に私はほっと息を吐いた。

「ため息とは頂けんの」

「すみません、屋敷が久しぶりで安心してしまいました」

「良い、雪音大事な話がある」

「白哉もそこへ座れ」と私の目の前に座ったお爺様は白哉に私の隣を指す。真面目な話なのだろう。まぁ、この祖父が私に冗談をこぼしたことなんて数える程もないのだが。

でも、今までにないくらい大切な話をしようとしている事くらい、私にも白哉にも分かった。



「雪音の婚約が決まった」

「っ!!!」

「おめでとうございます…!姉上!」

喜ばしい事だ。おめでとうと実の弟に祝福を受けるのは間違っていない、「ありがとう」と返すのに続けて、「相手は誰ですか?」と目の前のお爺様に尋ねた。


「藍染惣右介じゃ」

「現在五番隊で三席を務めている」



正直に言うと、面食らっていた。何人か聞かされていた婚約者候補の中で1番身分が低く、接点がなかったからだ。藍染惣右介と婚約する事は1番ないだろうと踏んでいた。


「……分かりました。ありがとうございます」

しかし。決まってしまったのだ。仕方あるまい。丁寧にお辞儀して目の前のお爺様を見やると、意外だとでも言うように目を見開いていた。

「……?」

「いや、雪音なら嫌だと駄々をこねると思ったんだが」

私の視線に気づいたのか、お爺様が笑ってそう仰った。確かに。半年前の私なら「勝手に婚約なんて決めんな!!」「結婚相手なんて自分で探す!!私は朽木家の飼い猫じゃねぇぞ!」とかなんとか叫んで屋敷を飛び出していただろう。

でも。決めたのだ。白哉を守ろう、皆を守ろう、瀞霊廷を守る死神になろう、と。皆が瀞霊廷に忠誠を誓う中、私はいつまで経っても子供だった。自分のことに精一杯で、周りを気遣う余裕も持っていなかった。


「立派になったな、雪音」とぼやくお爺様の声が、妙に耳に残って擽ったかった。





 
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