仲良くなるのはいつの間にかな訳がない
(10/23)
「はじめまして朽木副隊長」
翌日、仕事を終えた私の元に訪れたのは惣右介くんだった。「はじめまして」とにこやかに返すと、「今日の夕食は一緒にとってもいいって許可を頂いたんだけど、知ってるかな」と相変わらず優しそうな微笑みを浮かべたまま尋ねてきた。
正直そんな事は何も知らなかったけれど、その約束を知っていようがどうしようが、これからの行動に何ら差し支えないだろうし、伝え忘れていたであろうお爺様の評価を下げるのも嫌だった。「うん、聞いてたよ」と返して、「行こうか」と言って歩き出した彼の隣に肩を並べる。
予想していたよりも随分優しそうな出で立ちだった。正直総隊長や十一番隊の隊長を目の前にした時のようなビリビリとした強さは余り感じられず、何となく内側に重く高い霊圧が閉じ込められている感じが真子や卯ノ花さんによく似ていた。真子が副隊長にしたいって言ってたけど、まだ三席なんだよな。なんて思いながら彼を見やると視線が絡んでにこっと微笑まれた。
「野菜が美味しいお店と、お肉が美味しいお店、どちらがいいかな」
「肉!!」
即答で叫んでしまって、しまった、と口元を抑える。清楚で可憐な貴族の娘であるべきであり、野菜と返事をするのが明らかに正しかっただろう。脳内お爺様に「馬鹿者!」と叱責を受けながら、「ごめん惣右介くん……どっちでもいいよ」と返す。
「あははは、やはりそちらの方が素敵だよ」
「そちらの方?」
「肉に飛びつく方だよ」
ニヤリと微笑まれた。「実は平子隊長と何度かお話をしている所を見たことがあって」と微笑む彼に、私は思わず安堵の息を吐く。なんだ、知ってたんだ、この人。
真子といる所、という事はろくな言葉遣いも態度もとってない時だ。つまり、私が大人しくてお淑やかな絵に描いたような貴族の娘でなく、天真爛漫で言葉遣いはろくなもんじゃないことは百も承知。という訳だ。
「ならもう、猫被んなくていいわけだな?」
「そういうことになるね」
「あー良かった、疲れてたんだ、お淑やかなフリすんの」
そう言うと、惣右介は変わらず微笑んで、「着いたよ」とお店に案内してくれた。
「ねえ、その朽木副隊長ってのやめてくれない?」
出された上質な肉を頬張りながら、私の何倍も上品に口元へ料理を運ぶ惣右介にビシッと箸を突き上げる。「私、惣右介って呼ぶから、惣右介も雪音って呼んでよ」と付け足すと、「あぁ、そうだね。ごめん、雪音」とサラリと返された。
うん。やっぱり名前の方が距離縮まった気がする、なんて思いながら、私はまた肉を頬張った。
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