朽木姉 過去 | ナノ

真実に比べれば槍に体を突かれたい


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…小春日和だなぁ。

青空を見つめながら、ぼーっと欠伸をひとつする。



「よォ、雪音やないか」

折角隊舎から離れた場所まで来て、1人空想に耽っていたというのに、面倒な奴に捕まった。と、落胆しながら彼の金髪を眺める。しかし、私が落ち込んでいる時、決まって私に話しかけてくるのはこの男だった。


「相変わらず愛想がないやっちゃな、」
「…平子隊長に言われたくありませーん」
「俺は愛想のカタマリやわ、アホ」


大体何やねんその腑抜けた面ァ!と私の頬を摘む彼の手を、バシバシ叩く。

「そんでもって敬語って何や!普段はアホみたいに突っかかってくる癖して!お前が俺に敬語使った瞬間寒気したわ!どうしてくれんねん!」

「…うっさい、ボケ」

「何や〜?どうせまたお爺様に叱られたんやろ?雪音は十三番隊なんやから気にせんとき」

サラリと彼が言ってのけた言葉に、私は幾分か救われる。
そうだ。入隊してから、ずっとそう考えてきた。
今の私は、六番隊隊長、朽木銀嶺の孫ではなく、十三番隊の朽木雪音だ、と。

でも、時間が経てば経つほど、十三番隊に居れば居る程、自分は将来朽木家当主になるのだと否応なく実感させられる。


「ねぇ、真子」
「私は、やっぱり朽木家の当主になるんだよね」

「…当たり前やろ、お前、あの血の気が多い弟に朽木家任せてええんか」

「でも…私は女だもん」



当主というのは男が居れば男が継ぐものだ。例外的に四楓院家は夜一が当主をしているけれど、私の下に白哉がいる以上、私が当主になる必要なんてないのではないだろうか。

どこか普通のお家柄の男の人に嫁いで、普通の人生を、私も、歩めるのではないか。





「阿保言いなや」

私の甘ったれた現実逃避を、真子は鋭い物言いで跳ね除ける。


「朽木家に生まれて、英才教育受けて、霊術院一年で卒業したのに、六番隊には行かんって我儘言ったのは誰や?」

「ホンマは分かっとるやろ。お前が何すべきか、お前がおらんといけん場所はどこか」

「分かっとるのに分かってないフリするんは阿保やないで」

「ただのガキや」

真子から発せられる言葉が、私の甘えをグサグサと刺す。それが痛くて、苦しくて、でも言い返す言葉を私は持ち合わせていなくて、ただぎゅっと唇を結ぶ。





「そないな甘ったれた事考えてる今の雪音は、六番隊行かへんって駄々こねた雪音の数百倍ガキや」

ガキははよ帰って寝ぇ、と言い捨てて瞬歩で去っていく彼の背に、私は何も言えなかった。





 
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