朽木姉 過去 | ナノ

正直に言うとやさぐれていた


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「朽木三席!流石です!!」

絵に書いたような馬鹿みたいなお世辞に、いい加減嫌気がさしてため息が漏れる。この隊士が以前私のミスした書類に対して「オイオイ…訂正するの俺なんだぞ」と零していたのを知っている。


「朽木三席は本当に凄いです!」

コイツは私が三席の席次を与えられた時、反感を現していた。大貴族の娘に何もできっこないと浮竹隊長に申し出ているのをチラリと聞いてしまった。


「さすが、未来の朽木家当主様ですな!」

ヘラヘラと笑いながら私の機嫌を取っているのは、少しでも大貴族に媚びを売ってお零れを狙っているからだ。本気で私に対価無くして何かして欲しいなら、媚びるのではなく対等になれば良いものを。と思わざるを得ない。


皆そうだ。私の周りにいる奴は全員。私に貼られた朽木家の印しか見ていない。誰一人、私を見てくれていない。


「朽木家なんて、捨てちゃいたい」

誰も居ないことを確認してぼやくと、幾分かスッキリした。でも私の中を回る黒い渦の本質的な部分は何一つ変わってはいない。

朽木家の当主になんて、なりたくない。ただの雪音として、普通に笑って、普通に過ごしたい。そう思って六番隊に行くことを拒んだのに、結局私はどこに行こうと同じ扱いをされる。



護廷十三隊に入隊して、十三番隊に迎え入れてもらって既に一年以上経過している。憧れていた普通の生活なんて、私の手中には無い。

大嫌いな書類仕事は山ほど回ってくる癖に、虚との戦闘はほとんどしていないし、道場で手合わせしようにも「大貴族の娘に傷を付けたらどうするんだ」と、本気でかかってくる者はいない。





逃げ出したいほど嫌だった。だからこそ私をこんなにも縛る「朽木家」の当主になんて、絶対になってやるものかと誓っていた。

「雪音、新しくお前に目を通してもらいたい書類が……」

「うるせえ!!バーカ!!」


帰った時には浮竹隊長に「隊長に対して馬鹿はやめなさい」と説教されることも知らず、私は彼を押しのけて瞬歩で逃げた。そのまま私の目の前に広がる現実からも逃げ出したかった。





 
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