朽木姉 過去 | ナノ

平凡が最大の幸福である


(22/23)




隊舎に戻ると私の頬にできた痣に海燕が氷をあててくれながら「いつまでもやんちゃしてんなよ、お前ぇはもう隊長なんだからよ」と呆れたように注意する。

「霊術院時代からほんと変わらねぇな」と言われて、そういえば霊術院に入った時も、貴族だから入学試験を免除されただの、実力が伴ってないだのとバカにしてきた連中を道場でこてんぱんに叩きのめしたことを思い出す。

「今回は仲良くなりに行ってるんだよ」と笑うと、「なら痣作って帰ってくんな」と最もなことを言われて言い返せなくなってしまった。



「もう、海燕のバーカ!初日からそんな小言ばっか言うなって」

「バカ、お前を心配してんだろ!」

ったく、と呆れたようにこぼす海燕はいつになってもやっぱり優しい。副隊長を引き受けてくれたのだって、結局は彼の優しさだ。

「さァて、お仕事しますかねぇ」

目の前に大量に積まれた書類に、私も海燕も苦笑いを浮かべるしかなかった。








「ただーいまー!」

お帰りなさい雪音様、と迎えてくれる使用人達に「ただいま」とそれぞれ返しながら屋敷の奥の部屋へと歩く。「ただいま帰りました、お爺様」と声をかけると「うむ、初日は?」と声をかけられて、「素敵な一日でした!」と隠せない笑みを浮かべながら答えた。

他隊の隊長達にはおめでとうと沢山の声をかけられて、ひよ里ちゃんというとても面白い子に出会えて、いつものように海燕と軽口を叩きながら書類を捌いた。こんな日がずっと続けばいいと願ってしまうくらい、良い一日だった。


「良かった」というお爺様のぼやきをかき消すような、ドタドタという足音が迫ってくる。


「お帰りなさい!姉上!!」

「こーら白哉、もっと静かに歩いておいで」


そう言って白哉の頭を撫でると、横のお爺様が「ほう、言うようになったな、雪音」と私にニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。

「あれだけ言っても聞かなかった雪音が、注意する方になるとは」

へへっと笑って、照れくささを隠すように、私は当主になった時お爺様に頂いた襟巻きを、顎の所まで持ち上げた。


「私はもう朽木家当主だもん!」

にしし、ともう一度笑うと、お爺様一瞬驚いたように目を見開いて、それからすぐに優しく微笑んだ。





 
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