朽木姉 過去 | ナノ

雛が飛び立つ時親は何思う


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「アイツめんどい奴やぞー!」と声をかけても、その背中は振り返るどころか小さくなるばかり。隊長羽織に袖を通しても雪音の天真爛漫は相変わらずらしい。


「嬉しいんじゃないかな……雪音ちゃんは」

いつの間にか隣に立っていた京楽さんが子供を見守る親のような顔をして「彼女、貴族の娘だからね。あんな風に正面から突っかかってこられた経験なんてないんだよ」と付け足す。

確かに雪音は小さい頃から護廷隊をチョロチョロと動き回っては銀嶺の爺さんに叱られていたし、俺が隊長になる頃には隊長格に友達のように話しかけていたように思う。おまけに霊術院をたった1年で卒業したのだから、友達を作って喧嘩する機会もなかっただろうし、嫉妬や妬みはあれど、真正面から敵意むき出しの相手なんて出会った事は無いだろう。


雪音はいつも楽しそうに笑う。何があっても、楽しそうに笑う。だからこそ彼女は不安定で、その不安定さが俺には危うくて、よくお節介した。彼女の弱味を吐き出す居場所になって、彼女が正しく進めるように叱ることもしばしばあった。



「ほんま、大きくなったんやな、雪音」

「平子隊長も親目線かい??」

「せやなァ、どっちかっていうとそうかもしれへんなァ」












「何やねん!!!アイツ!!!!!」

だんだん地団駄を踏む音がして、閉じていた目を開けた。日向ぼっこが心地よくて眠っていたが、こんなに近くでこんなにうるさい奴がいては心地よく眠れるはずもないだろう。


「うるさいでぇ、ひよ里ィ」

「何や、ハゲ真子か」

「ハゲてへんわ、ボケ」



「雪音の事やろ?」と尋ねると「その名前すら聞きたないねん!!」と怒鳴られる。まァ、ひよ里が第一印象好むようなタイプやないやろな、と思いながら「雪音はお前の事気に入っとるみたいやけど」と続ける。

「アイツ、ど突いても叩いても、嬉しそうにヘラヘラ笑うんや、気色悪い」

ケッ、と吐き出すひよ里に、貴族の娘に何やってんねんと内心ツッコミながら「雪音はひよ里が思ってるような奴ちゃうで」と忠告する。


「はァ?!!!あない腑抜けたツラした奴やぞ!貴族の娘で温室でぬくぬく育てられて、たまたま隊長なれたからって調子のってんねん!」

「アホか」

雪音がそないな奴やったら、京楽さんも浮竹さんもあないな暖かい目をして見守る訳が無い。総隊長の爺さんが、わざわざ雪音の卍解の鍛錬に付き合う筈がない。隊長格になりたがらなかった海燕が、雪音の元で副隊長をしている筈がない。

彼女はサボり魔のフリをして大事な所は人の何倍も努力している。元々の霊圧の高さもさることながら、それを操る能力を長い時間かけて育ててきた死神だ。おまけに常に朽木家の肩書きが着いて周り、やっかみも沢山あっただろう。その一つ一つをねじ伏せ、「当主になんてならない!」と一時期は反抗しながらも、結局当主と隊長を継いだ彼女が強かでなくて、誰が強かなのだろうか。


(せやけど……)

「案外ひよ里が1番雪音と仲良ぉなるかもな」




「はァ?!!なる訳ないやろ!ハゲが!!」

「痛ァ!!!!何すんねんボケ!!!!」





 
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