朽木姉 過去 | ナノ

優しさと導きと


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「あれ?」

ふと書類の束を見れば書かなければいけない部分には既に文字が埋められている。「ボクが来た時には既にその状態でしたよ」と答えられ、暗がりの中で見えた字は海燕のものだった。

結局様子を見に来てくれて、しかも書類も終わらせてくれたらしい。まだまだ私は隊長にはなれないな、と思って苦笑すると、いきなり笑ったからかどうしたんだ、という目で浦原三席に見られてしまった。


「…私はまだまだ駄目な副隊長だなと思って」

そう言うと、意味を理解したのか浦原三席は「そんな事ないっスよ」と優しく言った。そんな彼の声色は何の含みも持たなくて、そんな声が案外私は好きだった。

「朽木副隊長は昇進するのでは、という噂を聞きましたけど」

「あぁ、はい。多分」

「多分?」

「まだ正式に決まってるわけでも、提案された訳でもないですから」

そう言うと「そうっスか」と肯定でも否定でもない答えが帰ってきて、きっとこの人には見透かされてるんだろう、とそれだけ思った。私の調子が悪そうだった、なんて、他の隊士でも気付かなかった事も俊敏に察知してしまう。それこそが彼の特性であり長所なのだろうが、そこに優しさが混じってしまう所が彼らしい。


「私、父上が殉職してしまったんです」

「霊術院に通っていて、やっと死神になれる、父上やお爺様の役に立てる、と躍起になっている矢先でした」

「父上が死んでしまったからこそ、私は本当に朽木家を背負ってもいいのか、父上がなるはずだった役柄を奪ってもいいのか、分からなくて」

ごめんなさい、と何に対しての謝罪かも分からない謝罪を続けると、「蒼純サンは、むしろ朽木副隊長がなれば喜ぶんじゃないっスか」と同情でも励ましでもなく、率直な感想を言うように彼の口から言葉が紡がれる。



「ボクは世間話程度でしかお話したことはありませんし、夜一さんとの会話を聞くのが主でしたけど、とても温厚で優しい方のような気がします」

「そんな蒼純サンが、朽木副隊長に対して恨みや叱責を与える筈がありません」


そう言って、当たり前だ、とでも言うようにヘラリと笑う彼に、金髪の関西弁が重なる。

「浦原三席は…真子に似てるね」

「平子隊長に?!やめてください怒られちゃいますよ!」と否定する彼に、私は思わず笑った。やっぱり、似ている。私の弱音を、悩みを当たり前のように否定して、それさえ無かったことにしてしまう所も。

少しだけ違うのは、彼の言葉に含まれている真子とは違う優しさが私の心臓を知らず知らずのうちにトクトクと早めていることだけだった。





 
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