思い出という名の楔
(16/23)
「お疲れ、雪音」
「あぁ
、うん、ありがと」
海燕に渡されたお茶をずず、と啜る。救援要請を受けてダミー虚を片付け、隊舎に戻ると、今まで感じていなかった疲労がどっと押し寄せて来た。
「つっかれた
お爺様は
?」
「もう屋敷に帰られたんじゃないか?ほれ、律儀にお前の分の書類は残してあるぜ」
海燕が指す書類の束は私が今朝捌いたものの2倍はあって、私が戦闘を終えて帰ってくると踏みながらこの量を残してサッサと帰ってしまうあたりに底知れぬ深い愛(厳しさとも言う)を感じてしまう。
「この量、お前1人じゃ終わんねぇだろ。手伝うぜ」
「気持ち悪!!いいよこれ私の分だし」
「人の親切は素直に受け入れてください
」
そう言って私が抱えた紙束を半分以上奪おうとする海燕に「ほんとに大丈夫だから」と取り返す。
「………雪音は隊長になるのか」
「……かもね」
薄々気付いていた。お爺様が最近仕事を多く私に回していることも、隊長が目を通さなければならない書類を再度確認という名目で私へ流していることも。だから海燕は問うたのだ。私に隊長になるのか、と。
「……もう少し、子供のままでいたいけど」
そうもいくまい。
手伝う、と頑なに言い張った海燕を無理矢理説き伏せて帰すと同時に書類に目を通す。お爺様が近々私に隊長の座も、当主の座も、譲るつもりなのは見て取れた。
「はぁ」
何回目かも分からないため息をついて、私はまた書類に視線を落とした。
毎回、隊首室で眠る時見る夢は、父上だった。
かつて父が着いていた副隊長という肩書きを背負い、かつて父も使ったであろう席で眠っているからなのか、父上は私の元へ現れ毎度微笑みかけた。
でも私はそれが苦しかった。父上がつくはずだった当主という立場を私が手にしても良いのだろうか。聞く術は永遠に失ってしまった。
霊術院に通い始めた頃、父上は殉職したとお爺様から聞かされた。元々体の強い方ではなかったとはいえ、いきなり聞いた父の死は幼い私にはとても受け入れられるはずもなく。だから今でも時々考えてしまう。私が父上が座るべきだった椅子に座っていてもいいのか、と。
「っ……」
瞳が窓の外のぼやけた月を映して、やはり私は眠っていたのだと理解した。しかし動く気には到底なれず、ここでもう一眠りしてしまおう、と思った矢先に、頭のすぐ横に置いていた書類を触る音がしてバッと飛び起きる。
「あ、起こしちゃいました?」
スミマセン、と謝るのは今日見たばかりの浦原三席。「なんだ、浦原三席か…」と感想を零すと、「今日会った時、なんだか調子悪そうだったので来ちゃいました」と悪びれもなくそう言った。
「朽木副隊長が眠ってて、ボクが起こすの、自己紹介した時以来っスね」
懐かしそうに目を細める姿が月夜に照らされて美しい。ふわりとした髪の毛が、闇の中で月の光を吸ってキラキラと輝く。素敵な髪色だ。と素直にそう思った。
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