いつも気付けばそこに居た
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伝令神機がけたたましく鳴った。
私の提案した戦闘訓練に六回生が引率するという案が採用され、実際に運用されるようになって半年。私が副隊長になってからは2年という月日が流れた頃だった。
「お爺様!!」
「分かっておる」
「行って参ります!!」
そう言って隊首室を飛び出して、現世へと向かう傍ら、地獄蝶で更に追加の伝令を受ける。大きく言えばダミー虚の暴走らしく、既に負傷者は10名以上だと報告された。
「クソッ!!!」
負傷者10名なら死者が出ていてもおかしくない。しかも、戦闘訓練に参加している有望な六回生を失うのは護廷十三隊にとって大きな痛手だ。
守らなきゃ。グッと拳を握って、走るスピードを上げた。
「…朽木副隊長!!」
「ダミー虚が…!面を割っても死にません!」
手短に報告を受ける。だがその生徒でさえも腕に大きな傷を負っていて、すぐに処置しなければ命にも関わるものであると安易に理解出来る。
「回道が出来る奴は負傷者を集めて治療しとけ」
「え、ちょ、朽木副隊長!!」
戦闘訓練に出向いた院生は多い。多い人数を守りながら戦うのは、中々体力と実力がいる。
とりあえず初めの一太刀で面を割ってみたけれど、報告通りすぐに回復、復活。どうなってんだと思いながらも、だったら首を落としてやろうと敵めがけて飛び込む。
でも。敵の元に霊子の光が集まる。見覚えがある。
(虚閃か…!!)
避けようにも、避けてしまえば守りに来た院生に当たってしまう。「破道の三十三、蒼火墜!」ありったけの霊圧を込めて虚閃を相殺すると、近くでピュウと口笛が鳴った。
「中々やるじゃないっスか、朽木副隊長」
「久しぶりじゃん、浦原三席」
「いやぁ、そこのダミー虚サンの解析機器を持って来ようとして、遅れちゃいまして」ニヤニヤと笑みを浮かべる浦原三席に、その言い訳が嘘だろうということはこの2年の間に分かるようになった。どうせダミー虚の戦闘時のデータでも欲しかったのだろう。絶対に見物している時間はあったはずだ。
「じゃあもう、殺しちゃうよこのダミー」
「えっ」と困惑した声をあげる浦原三席に、私は瞬歩で敵の背後に回り込む。そこからは早かった。面を割っても死なないなら、ダミー虚の全てを、再生できないくらいの塵にすればいい話だ。
「強引っスねぇ、相変わらずカッコよすぎます」
「…どーも」
褒められている気はしないが、彼が持ち込んだ解析機器を弄っている最中だったので軽口は叩かないでおいた。
「お変わりなさそうで」
「あぁ、うん。そっちも」
先程自分から久しぶり、と言っておいてそういえばここ半年ほど会ってなかったんだな、と気付いた。初めの半年ほどは自分の作ったダミー虚戦闘訓練案の再考に浦原三席も交えて意見交換したり、夜一の所に雑談しに行く途中で彼を見つけて軽く世間話をしたりしていたのに、本格的に自分の案が使われるようになって再考する必要がなくなったのと、隊長業務もしばしばお爺様に任せられるようになり忙しさを増した事も重なって会う機会は激減していたのだ。
「じゃあ、ここは任せたよ。私は霊術院の生徒達を瀞霊廷へ無事返さなきゃ」
「ハイ、それでは」
背を向ける。戦闘時に彼と会うのは初めての筈なのに、なぜだがそんな感じがしなくて、そういえばはじめて会った時も、初めて会った気がしなかったな、と思い出に耽った。
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