朽木姉 過去 | ナノ

この出会いはただの偶然


(14/23)






久しぶりに、父が夢に出てきた。

屋敷で待っていると、父上とお爺様が戻ってくる。「ただいま」と微笑む姿に私も安堵して、「おかえりなさい、父上」と笑顔で返す。

今日は字の練習をしたとか、真子と十四郎が遊びに来たとか、白哉に童話を読み聞かせてやったとか、他愛もない話をして「よく頑張っているね」と頭を撫でられるのが好きだった。

ああ、ずっとこのまま大きくなんてなりたくない。何で、死んでしまったの。父上。




「あのースミマセン」


苦しいほどの夢に、飲み込まれて消えてしまいそうな時、誰かのそんな声がして目を開いた。一瞬で隊首室に居ると察知して、「ね、寝てません!」と訳の分からない苦しい言い訳をする。


「ハイ、寝てないッスね」

優しい声色で答えられたその人は、先日夜一の元を訪れた際見た男で、私が寝惚けた頭で言い訳をした相手であるお爺様は隊首会なのか何なのかいらっしゃらなかった。

「……すみません、お恥ずかしい」

「いいえ、大丈夫です。ボクは二番隊三席の浦原喜助です、朽木副隊長にコレを」



そう言って差し出されたのは、自分の提案した霊術院生のダミー虚訓練の改善点を指摘した書類だった。改善点といっても、私の意見やアイディアを否定するといったものは一切無く、尻拭い係(救援部隊ともいう)への伝達は地獄蝶より伝令神機の方が早いのではないか、とか引率の六回生の人数は3人が妥当ではないか、等といった付け足し案ばかり。

完璧な書類だった。というより、何度も再考を重ねていたから自分の案にここまで穴があった事に自分でも気付かなかった。


「文句のつけようもねぇ…これ、誰が…」

誰が書いたのか尋ねようと、書類の最後の行に目を通す。提案者の欄には浦原喜助、と、目の前にいる男の名前が書かれていた。


「スミマセン、朽木副隊長のアイディアが素晴らしかったので、つい要らないお節介を」

「いえ、素晴らしいと思います。ありがとうございました」


「それでは朽木副隊長には了解を得たとウチの隊長に伝えときます」と言った浦原三席を見やる。へらりとしているのにここまで精巧な案を出すあたり、侮れないな、と思っていると、「言葉遣い、時々戻ってますよ」と可笑しそうに付け足されて、思わず「うるせぇですよ」と訳の分からない口調で返してしまった。



「あはは、面白い人だ」

貴方の方が余程面白い人ですよ。副隊長にそんな失礼なこと言うなんて。と思いながら、もう一度「うるせぇです」と目の前の男に向かって言った。








 
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