世界のどこにも希望なんてない
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昔から、私は『朽木家の跡取り』として育ってきた。
まぁ実際問題、事実として『朽木家の跡取り』であったのだけれど、真央霊術院を卒業したばかりの私には、そう呼ばれる事は何よりも苦痛なことだった。
そう、簡潔に言ってしまえば、あの頃の私はやさぐれていた。
「あ゙〜〜〜っ!!!クソ!!」
隊舎の廊下をドタドタと大袈裟な足音を立てて歩く。
今日も今日とて隊士が喋るのは「朽木三席は凄い」
「凄いことなんて、言われなくても私自身が一番分かってるっつーの!」
何せあの真央霊術院を1年で卒業し、入隊と同時に三席の席次が用意された私だ。周りの陳腐な野郎共に、負けるはずがない。
「あ゙〜〜!胸糞悪ィ…」
変わらずそんな言葉を吐き捨てていると 、ニコニコと近付いてくる隊長羽織が見えて、瞬時に口を噤む。
「相変わらず言葉遣いが戴けないな、雪音」
呆れたように微笑むのは、十三番隊隊長、浮竹十四郎。
「チッ…聞いてたのかよ、十四郎」
「嫌でも聞こえてくるよ、あんな大きな声で悪態を吐いているんだから」
付け足すように、私のことは隊長と呼びなさい 。と窘められて、渋々「すみませんでした隊長」と棒読みで謝る。
浮竹隊長は、意外と怖い。怒らせないに限る。それに気付いたのは、彼の隊に配属されてからだった。
霊術院を卒業してすぐ、私はお爺様が用意した六番隊副隊長の座を辞退した。辞退と言うと聞こえが良いが、実際は刃向かったと言った方が正しいだろう。
私は生まれてからずっと、'朽木'雪音なのだ。どんな時も朽木家の長女という肩書きがついて周り、私はいつも貴族の娘として見られた。
それがどうしようもなく嫌だった。私を私として見て欲しかった。お爺様が隊長を務める六番隊に入れば、私は一層朽木家の娘として扱われてしまう。加えて、次期当主なのだからとあれこれお爺様に叱責を受けることも多くなるだろう。それらに嫌気がさして、私は六番隊に入隊することを拒んだ。
そうして、特に崇高な理由なく六番隊副隊長の座を蹴り倒し、どの隊の隊長からも厄介者扱いされた私に、三席の席次を与えて迎え入れてくれたのは、浮竹隊長だった。幼い頃から知っている、長年遊び相手をしてきた女の子に対する同情であったのかもしれないし、彼自身の温厚な性格からの親切なのかは分からないが、とにかく私は彼に助けられたという訳だ。
だがどういう事だ。
六番隊に行かなければ大丈夫だ。と信じていた私にとって、
朽木家の娘として扱われるこの隊も、この地位も、この才能も、
全て殴り捨ててしまいたいほど大嫌いだった。
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