強かとはいつの世も憧れる
(11/23)
「よーるーいーちー!!!」
「相っ変わらずうるさい奴じゃのォ、雪音嬢!!!」
「えー?まぁまぁそんな事言わないでよ〜〜」
そう言って夜一に歩み寄ると、傍らに居た男が「それじゃあ報告は以上っス」と言って瞬歩で消える。どこかで感じたことのある霊圧に、「あの人夜一の隊の死神?」と尋ねる。
「なんじゃ、婚約が決まったと聞いたがもう他の男にうつつを抜かしておるのか?」
「バッ!!!そんなじゃねぇ!!」
「彼奴は儂の隊の三席じゃ、知り合いか?」
「ううん、多分会ったことない……」
会ったことは無いはずだけど。と内心ぼやきながら、「それで、婚約者とはどうじゃ?」と話を振ってくる夜一に「まぁぼちぼちだよ」と返す。
婚約者、といってもそこに恋慕の情なんてある筈もなく。ただ婚約しろと言われたからしているだけで、それは相手も同じだろう。
「なんじゃ、つまらんのォ」
「私は多分生涯誰かに恋するなんてことないと思うよ」
婚約者が居ながら他の誰かを愛するなんてことは中々パワーの居ることだ。そんな事に力を費やすなら少しでも死神としての腕を上げ、1人でも多くの命を救う方を選ぶだろう。だけど他の誰かを愛さないからといって私は惣右介を好きになることもないだろう。大体そういう感情は好きになりたいと思ってなれるものではないだろうし、何より私が惣右介に恋をしている姿なんて想像もできない。だからきっと、私が誰かに恋をすることはない。
「大体人の色恋話は聞きたがる癖に、夜一はどうなんだよ」
「儂こそ嫁ぐなんて有り得んだろうな、儂より強い男が一体この世に何人いるか!」と豪快に笑う夜一に、呆れつつも私の中を駆け巡ったのは、羨ましいというそれだけだった。
惣右介に不満はない。それでもやっぱり、私は恋をして結婚することに憧れたし、恋をしないなら夜一のように1人で生きていく強かさに憧れた。
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