自分の命を対価にしてでも
(7/12)
私にしては、辛抱強く堪えた方だと思う。
出発する前、喜助に「貴方は出来るだけ目立たないでください」と釘を刺されたのだ。
ぼそりと呟いた「貴方の出る幕なく帰ってくる事が今回の大成功っスけど…そう上手くはいきゃァしない」という言葉は聞こえてないフリをしたが、とにかく私はずっと夜一の洞窟で身を潜めていた。
茶渡が京楽と闘っていようが、石田が瀕死に陥っていようが、一護と白哉の戦いを夜一が止めていようが。
「白夜坊、変わっておるようで、中身はちっとも変わらんぞ」
倒れた一護の傍らで、夜一が言った。遠くに見える夜の空を見ていたけれど、私に語りかけているのは何となく分かった。
「そっか」
「儂は白哉に会うべきじゃと思っとる」
「うん、そうだね」
私だって、会いたいよ。
そう言おうとして口を噤んだ。
白哉はきっと会いたくないだろう。永久追放された姉の事なんて完璧主義の白哉からすれば消したい過去なのだから。
「決めるのは、お主じゃ」
あの時言われた夜一の言葉が、私の中で反響する。
双極に、隊長格の霊圧が集まっているのを感じる。
行かなきゃ。
身を隠してなんていられない。
例え処刑されるのが私だったとしても、ルキアは助けなければ。
「やっほ〜!ルキア!」
双極が今にもルキアをのみこもうとしていた。だが、死を覚悟してぎゅっと目をつぶった彼女の空気をぶち壊すような、間の抜けた挨拶。
何を隠そう、私、朽木雪音から発せられたものである。
「雪音!…貴様も一護と一緒に?」
そうだよ、と頷くと、「たわけめ!」と叱られた。貴様は尸魂界の全ての死神を敵に回しているのだぞ!と私を叱咤するルキアに、「大丈夫だよ」と微笑む。
追放令が出されてる私にとって、ここに存在していること自体が掟破りだ。
(本当に、なんで着いて来たんだろうなぁ。一護の熱血にアテられたか?)
「雪音!!そこをどけ!」
呑気に自虐していた私に、ルキアが叫ぶ。どうやら双極が本格的に向かってきたらしかった。
「おいおい、危ねぇな、雪音」
そう言って、私とほぼ同時に双極に刃を向けたのは勿論一護で。
「俺が居なかったら雪音焦げてたぞ」
「うるせぇ!一護が居なかったら今頃私がこいつを粉々にしてるとこだバーカ」
「おまっ!!口悪いぞ!」
「知りませーん聞こえませーん」
ふんっ、とそっぽを向くと、刀に確かに感じていた霊圧がスっと軽くなる。ていうか双極って確か斬魄刀100万本って言われてなかったっけ。私と一護の斬魄刀2つで防げちゃってるけど。どういうことコレ。
「第二撃のために距離を取ったのか」
隣の一護は冷静に分析している。
私はというと、「2度も双極を止めることなどできぬ!」と反論しているルキアを横目に、一護に「斬魄刀にしっかり霊圧込めな」と指示する。
来る!そう思ったのと同時に、懐かしい2人の霊圧が目の前の火の鳥を包み、粉々にしてしまった。
「浮竹…京楽…」
思わず零れた私の声が聞こえている筈がないけれど、何となく2人を見つめて、視線が絡む。
しかし、叫べば声が届く程度の距離の私たちに交わす言葉など、あるはずもなく。
あっさり処刑台を壊してしまった一護から、ルキアを預かり、高密度な瞬歩で懐かしい同僚と、そして実弟を通り越したその先へ移動する。
「あとはよろしく一護!」
「ああ!雪音も、ルキアの事任せたぞ!」
「任せろ!」と破顔すると、心配そうに「雪音…」と私の名前を呼ぶルキアに、「生きてること以上に、大事なことなんてないよ」と、微笑みかけた。
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