朽木姉 | ナノ

百年経っても冷めない温もりは


(8/12)






彼女がもしここに居たら、どうするだろう。

「処刑は明日。それが決定ならば私はそれに従うまでだ」

そう冷たく言い放った白哉の背を見ながら、俺はある少女を思い浮かべた。

いや、もうとっくに少女なんて年ではなくて、成長して素敵な女性になっているだろうし、現に隊長羽織に袖を通した頃は少女なんて年の功は卒業していたのだけれど。

それでも。俺が知る朽木雪音という女は、いつだって初めて会った時に、鬼道が出来ない!と頬を膨らませたあの女の子のままだ。


彼女なら、どうするだろうか。妹の死に躊躇いもなく冷静に受け止める白哉を叱るだろうか。それともそれでこそ当主だと褒めるだろうか。

いや、絶対に彼女は青筋を立てて実弟を叱り、「それでも兄か!」と頭突きのひとつでも喰らわせるだろう。


しかし、彼女はいない。朽木家の英才教育を受けたにも関わらず、隊長格になることを1度は拒否し、大貴族の娘が。と馬鹿にする輩を実力で蹴飛ばし、隊長になったかと思えば、貴族らしからぬ温厚さと思慮深さで部下に慕われた彼女は、もう尸魂界のどこにも居ないのだ。







だから、彼女を双極で見た時、俺はあまり驚かなかった。

「朽木雪音!?」と彼女の名前を呼ぶ砕蜂や、声はあげないものの驚きの表情を浮かべる白哉、「こりゃまた懐かしい顔だ」と傘を深く被り直す京楽の中で、俺は1人、やっぱりか。と、それだけ思った。

俺の知る、雪音はそういう奴だ。散々嫌がっていた当主の座を引き受けたのも白哉を守るためだと彼女は言った。行かなくていい虚討伐に途中参加して始末書を書かされていた時も、初めての任務だった部下が心配だったからだと言った。

視線が絡んだ時、彼女の瞳の奥にある暖かみは変わっていないように思えた。

朽木を抱えて(正確には抱えている方も抱えられてる方も朽木だが)瞬歩を駆使し、あっという間に背後へと移動した彼女が、「生きてること以上に、大事なことなんてない」と声をかけた姿に、かつての彼女が頭の中に過ぎる。

「白哉、生きてること以上に大事なことなんてないからね」
幼かった白哉が任務に行く度にそう言って見送っていた彼女が。



やっぱり彼女は変わっていない。

(何も変わらず、俺の知る、朽木雪音のままだ)












 
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