あの背中はもうどこにも居ないというのに
(6/12)
「もうお止めください、兄様!」
四番隊の名も知らぬ隊員を庇って私の名を呼ぶルキアに対して躊躇がなかった訳では無い。でも、今更止めることなど出来なかった。自ら決めた掟が私を縛り、もう、どうするのが正解なのかさえ分からなくなっていた。
ただ、目の前の旅禍を殺して、ルキアを処刑して、そうすること以外道が閉ざされているような気がした。
「助けに来たぜ、ルキア」
それなのに。目の前にいるこの男は、私の苦悩なんて飛び越してルキアを助けにここまで来た。そのまっすぐな純粋さが、かつて姉と共に笑っていた男に似ていて、羨ましくて、憎かった。
「私が消す」と後ろの浮竹に言い捨てて、向かってくる橙髪に目を細める。
「っ…!!」
似ていると思った。太刀筋も、隙をつこうとすると一歩下がって体制を立て直す癖も、間合いさえも。
見覚えがあった。かつて尸魂界に、護廷十三隊に、知らぬ者はいなかったというのに今や名前を知っている者さえ数える程になってしまった彼女に。幼き日、必死に背中を追いかけた実姉に、目の前の男の太刀筋はよく似ていた。
しかし、彼女は尸魂界を裏切った大罪人だ。尸魂界を捨て、隊長羽織を捨て、朽木家を捨てた。あの日、浮竹から「雪音が霊力全剥奪の上で永久追放される事が決まった」と聞いた時の、体中の力が抜ける感覚は忘れまい。
当時の姉上の副官や数人の隊長格は彼女の無罪、再判決を求めたが、一度下った四十六室の命が覆されることはやはり無かった。
姉は大罪人なのだ。死んでいるだろうと思って、この百余年を過ごしてきた。それでも。あの粗暴な言葉遣いが、乱雑に頭を撫でて「よくやった、白哉」と微笑む彼女が、私にはとても仲間を虚化の実験材料にするような人だとは思えなかった。
でも。私は護廷十三隊の隊長だ。尸魂界の決定に、忠実でなければいけない。私情を挟むことは許されない。
「散れ」
斬魄刀の名を呼ぼうとした時、懐かしい霊圧が、私の隣を掠めた。
「…夜一!!」
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