朽木姉 | ナノ

覚悟と勇気


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懐かしい。夢を見た。



「姉上!今日は屋敷でお休みになるのですか?」
「うん、白哉は刀の稽古?」

「雪音チャン、何しよるん?サボり?」
「一緒にしないでよ真子」

「朽木隊長や」
「ギン!おっきくなったね!」
「3日で背ぇは伸びひんよ」

「朽木隊長、お疲れ様です」
「惣右介、今は勤務時間外だから名前で呼んでよ」

「雪音サン、お茶でもどうっスか〜?」




懐かしい、幸せだった日々が宿る。戻らないのだ。あの日常は。大切で、大好きだったあの尸魂界の生活は。

「ーーーサン、ーーサン」
「雪音サン、」

うっすらと目を開けると、ぼやけた天井と色素の薄いふわふわの髪。何色とも言い難い綺麗な瞳が私を覗き込んで、私が目を開けたのに気付いた途端安堵したようにその綺麗な目を細める。

「おはようっス」

「……浦原たいちょ?」

思わず口にした懐かしい敬称に目の前の男は訝しげに「何寝惚けてんスか、きすけ、でしょう?」と優しく訂正する。彼とは違う私の漆黒の髪をサラリと撫でられて、その感覚に妙に安心しながら、そうだ、尸魂界にいたのはもう随分前だ、と当たり前のことに気付く。

「…そっか、寝惚けてた…ごめん、喜助」

過去なのだ、という哀愁をぶち壊すように、彼はいつも通り「いいんスよ〜」とか何とか言いながら、お粥の乗ったスプーンを差し出してくる。

「…食べたくない」
「食べないと元気出ないっスよ?」


フラッシュバックするのは、白哉の事。ルキアの事。

「ねぇ…崩玉、どうするの」

崩玉なんて、本当はどうでも良かった。ルキアが、知らないうちに出来ていた妹が、尸魂界に制裁を受けるなんてとても耐えられなかった。

喜助は、そんな私の気持ちに気付いていないのか、それとも見透かしていながら知らないフリをしているのか(恐らく後者だろうが)何の含みもなく、
「黒崎サンにお任せしようと思ってます」と微笑んだ。


「一護に…?」
「はい。朽木サンを助けに行くそうです」



彼の溌剌とした橙髪が蘇る。一護らしい。と、素直にそう思った。他人の為に命を懸けて助けに行くなんて、そうそう出来ることではない。

でも、私の場合ルキアはもう他人ではない。ただの顔見知りの現世駐在死神でも、浦原商店を訪れるお得意さんでもなく、彼女は私と同じ朽木家の人間なのだ。



「喜助」
「はいっス」
「私も尸魂界に行く」

「それは…全てを覚悟しての事…ですね?」






「うん」

喜助の鋭い瞳に、負けじと私はぐっと見つめ返して頷いた。100年前、永久追放された私にとって、戻るという事が何を意味するのか。

(きっとルキアを助けられても、次に極刑に掛かるのは私だろう)












 
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