師と呼ばれるには時間が足りない
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「接近戦ならボクより雪音サンのが得意分野でしょう?」とか何とか言って、3日ほど前、喜助から一護の'勉強会'の最終レッスンを押し付けられた。
「間合いを掴め!今ので殺されてるぞ!」
怒鳴りながら彼の体に加減しながら刃をあてる。ボロボロになっても立ち上がって向かってくる事以外、特に褒めるべき点は見つからず、ひたすら叱咤する日々。
「馬鹿野郎!外してんぞ!どこ見てんだ!」
「畜生!」
彼の斬術の師として初めて対面した時、何のために刃を握るのか問えば、彼は「護るためだ」と言った。ルキアを護り、仲間を護るために、尸魂界を敵に回し、朽木白哉に勝ちたいと言った。
しかし、今の一護は赤子同然だ。やっと斬魄刀の始解を手に入れたばかりで、高く見積っても副隊長クラスだろう。それを隊長格と互角に渡り歩けるレベルにしなければならない。
「一護、」
「んだよ、俺はまだ、戦えるぜ?」
ボロボロの体で笑って見せた彼に「これから私は攻撃の速度を2倍にする」と告げる。一瞬驚いた顔をしたが、彼の瞳は絶望には染まらなかった。寧ろ熱を孕んで更にやる気を感じさせる。
「一護、とりあえず速さに慣れろ。後のことはどうとでもなる」
「私がこれから教えられるのはそれだけだ」
「うん、合格だ、一護」
過度に霊圧を消費し、おまけに動きすぎた疲労度からか、倒れ込んだ一護にそう声をかけた。
最終レッスンを始めて5日。驚く程のスピードでステップアップしていった一護は、私の刃をやっと受け止められるようになった。反撃も半分程の確率ではあるが当ててきているし、余程の強敵に当たらない限りは大丈夫だろうと想像出来る。
「さ、夏休み謳歌してきなよ、高校生だろ?」
「さっきまで斬りかかって来た奴がよく言えるな…」と文句を垂れる彼を強引に浦原商店から押し出す。
「あぁ、そうだ。私も尸魂界に同行する事にしたから」
「よろしくね」と付け足すと、相変わらず一護は「早く言えよ!」とか「何でアンタが!」とか、ぎゃんぎゃんと煩い。
私は、よく晴れた夏空を見上げながら「私も人助けしたいんだよ」と適当に言い訳した。
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